2015年7月にフォースタートアップスへ参画した古参メンバーの中村優太(Nakamura Yuta)。「世界で勝負できる産業、企業、サービス、人を創出し、日本の成長を支える」という大義に共感し、それを実現すべく、自ら道を切り拓いてきた。当時は名もなき小さなチーム。今では国や大企業も巻き込み、着実に目指す世界に近づいている。いつか東京が、世界を代表するイノベーション都市となる日を思い描く。
中村が今、取り組んでいるのは、大企業とスタートアップを結びつけること。両社が出会えば、双方にメリットがある。スタートアップ側には、資金調達や売上に繋がる提携、PR効果や出向等による人材獲得といった連携可能性がある。大企業側には、出資や既存事業とのシナジーを想定した業務提携やDX化、新規事業のシーズとなりうる技術やプロダクトの発掘といった連携可能性だ。
「スタートアップと大企業は、お互いにニーズがあり、言わばガチャッとはまる凹凸がある。でも、それをくっつける人がいません。互いの言語や戦略の理解が難しく、それをトランスレートする人が必要なのです」。中村によると、その問題はオープンイノベーションといった言葉が流行り出した頃からあったという。だが、うまく機能しなかった。
「大企業がスタートアップに向けて、『あれもこれも持ってるから、一緒にやりたい人集まれ』と公募の形で呼びかけることがありますが、全てのスタートアップに届くわけではありません。結局、たまたま応募のあった100社前後のスタートアップが検討先になる。でも、日本にはスタートアップが12,000社以上もあります。つまり戦略性も低く網羅的な他社比較もないまま提携交渉を進めることになります。通常のビジネスにおける検討フローでそのような進め方はあまりありませんよね。応募があったのでこことやりますって稟議が上がってきたら速攻却下ですよね。あるべき姿は提案型。つまり、12,000社以上あるスタートアップ企業から、大企業がここと思ったスタートアップに、連携の提案をしに行きます。海外ではこれがトレンドで、そもそもビジネスのフローにおいて当たり前の話です。日本も大企業からの矢印を太くしないと、スタートアップとの連携は進みません」。そこで、トランスレーターの出番となる。
スタートアップの戦略・課題の仮説を作り、そこに差し込めるような提案をしなければうまく進まない。「大企業側に、スタートアップの良き理解者が必要なのです」と中村。これはまさに、フォースタが果たすべき役割だ。スタートアップに関する知見は日本トップクラスで、メンバーは、大企業出身者も多い。
中村は言う。「我々は、創業以来7年ほど経営人材支援という立場からスタートアップの成長過程を見てきました。採用戦略は成長戦略に密接に紐づくことから、経営人材支援を通して多くのスタートアップの成長戦略に触れてきたことになります。これらの経験を通して、大企業側にスタートアップ側が求めうる連携内容を進言できます。
そして、連携の先に何があるのか。いかに日本の成長につなげるのか。中村の話は続く。「例えば、日本のスタートアップが200億円調達した、というニュースで盛り上がります。でも、海外では調達金額が一桁違う。となると、日本の企業が世界で闘うのは難しいです。ならば分散してしまっている投資をもっと集中させる必要があります。そしてそれは調達金額に限った話ではありません。マーケティング支援や採用支援、オフィス提供に至るまでスタートアップの成長に必要な経営資源投資の全てに通じます。オールジャパンでリソース投下を集中させて、勝たせに行くべきです」。
先日発表されたSMBCグループとの業務提携もその狙いだと言う。
「フォースタートアップスが運営する『STARTUP DB(スタートアップデータベース)』で保有する12,000社のスタートアップ企業の情報をSMBCグループに連携し、今後の日本を代表するスタートアップの発見と支援を実現したいと思っています。」
その動きは民間での業務提携だけではない。フォースタは、経団連にも、経済産業省が推進する『J-Startup』にも、東京都が設立した『スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム』にも参画。保有する12,000社以上のスタートアップ情報を活用しながら、スタートアップ選定に向けて積極的に助言などをしていく決意だ。
「我々の存在を大きくしながら、我々の情報を行政、大企業などスタートアップのエコシステムビルダーに提供していきます」と中村。1社でできることは限りがある。だから、フォースタが扇の要となって、影響力あるプレーヤーを巻き込み、日本のスタートアップを世界で勝たせにいくという壮大な計画を実現させる。そしてオールジャパンも、まだほんの序章に過ぎない。
中村は言う。「国だけではなく、海外をどう巻き込むか。調達金額が一桁違う世界に追い付くには、それが非常に大事です」。
中村が入社した5年前も、フォースタ(当時は前身のチーム)は「世界で勝負できる産業、企業、サービス、人を創出し、日本の成長を支えていく」と謳い、タレントエージェンシーを主な事業としていた。
VCと組み、「人材」を足がかりにスタートアップ企業への支援を始め、以後、できることをどんどん広げてきた。
海外という視点では最近、一つの目に見える成果を上げた。米民間調査会社のスタートアップ・ゲノムが、スタートアップの育成環境を評価した世界の主要都市のランキングを公表。2020年版で、それまでランク外だった東京が15位となったのだ。
「おそらく、当社で開発・運営している成長企業データベース、『STARTUP DB』の影響が大きいと思います」と中村。実は、2019年に『STARTUP DB』は、今回のランキング評価の情報源にも使われている米国の世界最大級のベンチャー企業データベース『Crunchbase』と提携。当初『Crunchbase』には日本のスタートアップは2,000社しか掲載されていなかったが、『STARTUP DB』との連携を通じて約12,000社に拡充し、世界のプレーヤーの目に触れるようになったのだ。
「これまで東京がランク外だったのは、世界が日本の情報を拾えていなかったから。ただ単に日本のスタートアップ情報が英語で発信されていなかっただけ。日本はもっと自信を持っていいのです。これをきっかけに海外の投資家や事業会社が日本のスタートアップに目を向けてくれたら嬉しいですね。海外をいかに巻き込むか。本当に重要です」。
世界の時価総額ランキングでは、上位にはApple、Microsoft、Amazon、Facebook、テンセント、アリババなどが並ぶ。50位にランクインしている日本の会社は、46位のトヨタ自動車だけ(2020年6月末のデータ)。
「まずは新しい産業の中から1社、50位以内に食い込みたい。我々は企業支援ではなく、産業支援と言います。その理由は、日本のエコシステムがすごいと証明するには、1社ではなく数社入らないといけないから。1社では、その1社が特別なだけかもしれません。1社出れば、マイルストーンにはなりますが、我々が追求すべきは再現性。『その会社がすごい』ではなく、『日本のエコシステムが整ってきた』と言える産業をつくることです。アメリカのシリコンバレー、中国の深センは、特定の企業名ではなく、都市の名前で語られます。東京が、日本が…と語られるには、少なくとも数社、できれば上位独占にならなければいけません」。
そう語る中村は、「私が生きている間に実現するのは難しいかもしれませんが…」と付け加える。フォースタの掲げる世界観は、数年で実現できるような小さなものではない。「生きている間には実現できない、でも自分が死んで何十年後かに、世界の50位に何十社とランクインしているエコシステムを創る。そんな長い視点を持って、覚悟してやっているのです」。
入社時、目指す姿は途方もなく大きいけれど、実態は名もないチームだった。その後、スタートアップをめぐる情勢も劇的に変わった。「当時は、海外なんてワードはまったく出ていませんでしたが、今は実現に向かって動いています。課題解決に向けて1歩ずつ進んでいる実感があり、目指す世界に、確実に近づいています」。中村は言う。
「自分の事業と社会的な大義に対して、最短距離で結果を出したい」と考え、今まで走りづづけてきた中村。今も目の前に道は用意されていない。自ら切り拓きながら、最短距離で進もうとしている。コロナ禍で世界が大変革を迫られるなか、半ば強制的にデジタルトランスフォーメーションが動き始めた。世の中は、ますます新しいチャレンジを求めるだろう。その芽を、フォースタは見逃さない。トランスレーターとして大企業、行政など各所を巻き込み、大きな潮流にしていく。
「非常にやりがいのある毎日です。大きい課題に向き合いたい人は、ぜひフォースタートアップスという船に一緒に乗ってください」。中村からのメッセージだ。