2020年、幕末や戦後と並ぶ変革期に突入。日本進化の鍵は「産学官×ヒューマンキャピタリスト」だ。

2020-09-17
2020年、幕末や戦後と並ぶ変革期に突入。日本進化の鍵は「産学官×ヒューマンキャピタリスト」だ。

入社以来、成長産業支援の豊富な知見と人的ネットワークを活かし、産学官連携に取り組んできた泉 友詞(Tomonori Izumi)が満を持して立ち上げた新チーム、Public Affairs戦略室。

新チームは、日本の新産業の成長を加速する社会作りのために、様々なステークホルダーとコミュニケーションをとり、ルールづくりなどに取り組んでいく。具体的な活動と目指す世界を聞いた。

Public Affairs戦略室室長/シニアヒューマンキャピタリスト泉 友詞

大学時代より続けていたアスレティックトレーナー活動の傍ら、大企業向けコスト改善コンサル、金融機関勤務を経て、2006年よりインターネット業界にてマーケティングコンサルタントとして活動。その後、GMOインターネットグループ企業にて、MGRとして事業部マネジメント(10名程度)及びクライアントのROI最大化に尽力。2014年7月よりNET jinzai bank(2018年3月より for Startups Inc.に変更)にジョイン。これまでの知見や人脈を活かしたシニアヒューマンキャピタリスト業務の他、イベント運営や産学官連携コミュニケーション領域含め、日本の新産業創出プラットフォーム構築に関わっている。2020年8月、Public Affairs戦略室を創設、室長に着任。

広く社会に働きかけ、成長産業創出・成長を加速するルールをつくる

Japan HR Tech Conference 2019」にて、平井IT担当大臣(2019年当時)と運営事務局

―― 新チーム、Public Affairs戦略室について概要などを教えてください

泉:そもそもPublic affairs(パブリック・アフェアーズ)は海外では一般的ですが、日本ではまだ認知が進んでいないのが現状です。

ガバメントリレーションズ(GR)というワードもありますが、パブリックアフェアーズ(PA)はPRとGRの間に位置し、PとGに対して積極的にコミュニケーションをとりながら、開かれた形で政策提言や社会に役立つルールづくりなどの働きかけをしていく活動を指します。

要は、目指す世界観に対して必要なリレーションやコミュニケーションをロビイングが比較的One to Oneの話し合いで物事を進めようとするのに対して、パブリックアフェアーズは”透明性”を持って進めていくことが特徴です。

我々、フォースタートアップス(以下、フォースタ)でいうと、日本国内で成長産業支援エコシステムを構築し、スタートアップの誕生/成長を加速するような仕組みづくりの活動を視野に入れています。

ここ数年の大きな政府の動きとしては、2018年に経済産業省主導でスタートアップ企業育成支援プログラム『J-Startup』がスタートしましたね。

これは、政府はスタートアップをえこひいきしますよ、と宣言するのに近い取組みです。

今後はデジタル社会の実現と、それに伴う新産業をつくっていかないと日本が危ない、というメッセージングでもある。第一歩としてはとても素晴らしい取り組みである反面、実際にどのように強いスタートアップが生まれ、グローバルにチャレンジできるのかという部分にはタッチできている訳ではないので、「具体的に何をすべきか」については現在も意見交換することが多いです。

一方で私たちフォースタは、2013年から『進化するヒト』軸を中心とした成長産業支援事業に取り組んできており、一日の長があります。成長産業に関するデータも、国内最大級のものを持っています。そこで、今は国や自治体に向けて、「本気でスタートアップをつくるのであれば、我々のリソースを活用すべきである」という提言をしているところです。

『J-Startup』選定企業は、国から数々の支援を受けられるのですが、実際はそれほど積極活用されているわけではありません。どちらかというと選定されることが目的化してしまっていて、この辺りを根本的に変えていかなければなりません。

お金だけでは、新産業は成長しない。私たちはヒューマンキャピタリストとして、次世代の社会に必要な進化を提供する。

SHIBUYA QWSにて、竹本内閣府科学技術担当大臣との意見交換会

―― では、フォースタートアップスとしてはどのような活動をしてくのでしょうか。

泉:2点あります。1つは、グローバルで戦えるスタートアップを生みだす機能となるためのエコシステムビルディングです。

今日本には『J-Startup』がありますが、弊社もサポーターとして参画しているので既に協力関係にあり、ヒアリングなども受けています。今後も積極的に私たちが持っているデータやノウハウを連携していくつもりです。

もう1つは、プレ「J-Startup」企業に対する活動です。

今年(2020年)7月に、内閣府が東京、名古屋(東海)、大阪(京阪神)、福岡市の4拠点を、「スタートアップ・エコシステム拠点都市」に選定しました。これは、世界に羽ばたくスタートアップを生み出すために、拠点内のスタートアップに対して官民で集中支援を行うという制度で、我々は、一つのマイルストーンとして、「J-Startupクラスのスタートアップ」を輩出する為にはどうすればいいか、という視点で自治体に対してサポートができればと考えております。

それぞれの地域の方々と話していて感じるのは、ヒト、モノ、カネ、情報、デザインという経営リソースがあるなかで、地方自治体に様々なご支援をされているコンサルティング企業などは、素敵な戦略モデルを描きます。

しかしながら、そこにどのように「進化するヒト」を集わせるかという視点が、すっぽり抜けているのです。誰でもいいなら来るかもしれませんが、その考えではより良いスタートアップは成長しない。

つまり、これから未来を創ろうとしているスタートアップを、旧態依然とした公共政策戦略で生み出そうとしている。これからは昭和・平成の常識は非常識になると捉え、まったく新しいエコシステムをつくっていかないと世界で勝てるスタートアップなど生まれるわけがありません。

但しながら、その環境にヒューマンキャピタリストが入ることになれば、『成長産業支援』の課題は様々解決することができるでしょう。

弊社が掲げるヒューマンキャピタリストとは、シンプルにいうと「次世代の社会に必要な進化を提供する人」です。使命感を持って、社会に明確な価値を生み出すヒューマンキャピタリストこそが、これからの時代に必要なんだと思いますね。

同じビジョンを持って産学官が共創・連動する社会へ


泉:もちろん、同じような志を持つ方は政府自治体にもおられます。言われたことをその通りにやり、9時5時で帰れる―といった昔のステレオタイプな公務員的発想ではなく、時代を動かしていくには、「進化」を掲げるニューノーマルな公務員が更に増えることも必要です。肌感ですが、そのような公務員の方は増える傾向にあるのではないでしょうか。

例えば、実証実験でドローンを飛ばすとき、民家の上にかかるなら、民家の方たちに承諾を取って回るなど、様々な調整が必要です。そのような地道な活動を、労力を厭わずにやってくれる自治体の方々には本当に頭が下がります。

今後の行政では、税制優遇や規制緩和など、大きな政策を考える役割も必要な一方で、このようなミクロな目線を持ってスタートアップに寄り添う方々も必要です。彼らは事業を立ち上げたいと考えている人に対して何が必要か、行政がどんな支援ができるかと丁寧に相談に乗られています。

そこは、民間企業の私たちがパワーを割きづらい部分でもあるので、ニューノーマルな公務員の方々が担ってくれると、これから起業されたい方にとっても大きな力となります。その努力が報われるように、私たちはできることを全力でやります。

このような活動の一つの到達点は、起業家が生まれ、事業が成長しやすい産学官のシームレスなコミュニケーションプラットフォームを生み出すこと。そのために今、「一緒にやりましょう」と各所に働きかけているのです。

この輪を回していく上で重要なのは3点。

ルール形成、セクター間連携、価値主導型ブランディングです。開かれた形でルールをつくり、意地を張らずに、みんながハッピーになる体制を構築します。

我々は「成長産業支援」という軸で、セクター間を連携するトランスレーターの役割を果たしたいと思っています。

例えば大学には、社会課題を解決する素晴らしい研究をしている先生方がたくさんいます。しかし、現状は行政の助成金や補助金を頼りにする傾向にあります。一方アメリカでは、教授が自分の研究を企業に提案して研究費を稼ぐ。まさに事業家のような活動をしています。日本の研究者はどうしても論文執筆がメインで、社会実装のイメージがあまりありません。それを「社会実装しましょう」と、自治体や企業と一緒に働きかけていく。

私たちは既に、いくつかの大学と組んでデータ提供や社会実装の支援をしていますが、この動きを国全体の仕組みとして機能させたいと考えています。

そこで重要なのが、3つ目の価値主導型ブランディングです。産学官それぞれのプレーヤーが自分の利益を追求するだけではなく、「私たちはどのような国にしていきたいのか」というビジョンのもと、活動していくことが大切だと思います。

歴史は70年単位でターンアラウンド。明治維新と戦後に匹敵する変革期の今、不変の「姿勢と想い」が集い、日本を進化させる。

泉:特にこの数年は「DX」が一つのキーワードになっていますね。

昨年成立した『デジタル・ファースト法』をはじめ、社会のデジタル化に向けたルールづくりは着々と進んでいて、今後はその動きに伴った働き方にも踏み込んで提言をしていきたいと考えています。

自分の会社が発展し、かつ持続可能な社会のためになることであれば、当然、「やろう」、「やるべきだ」と思う経営者の方が多いはずです。バズワードにもなっている『DX』を、我々の目指す産学官のシームレスな社会の実現のために活用していこうと考えています。

私たちは誰と話そうが、伝播すべきことは同じです。

政府・自治体であっても、大企業や起業家の方でも私たちの「姿勢と想い」は変わりません。

ブレずに「日本が勝つ為に進むべき未来」について伝え続け共創する。

正しいと信じてやってきたし、これからもやっていきます。

―― これらの活動を通して、どのような世界にしたいと思っていますか。


泉:
シンプルに日本をアップデートしたい。

特に今は新型コロナで全世界の経済は大打撃を受けている。日本国内もDXがあり得ないほど前倒しで進んでいる。この波が全世界で収束する前の1-2年で勝負をかけるべき。

やるなら今しかないんです。

何度も言っていますが、競争力の源泉は「ヒト」です。

短期施策では「ヒトとカネ」を「志」のもとに一極集中させ、圧倒的TOP企業を作り出す。

中長期では、日本国民がイノベーティブな発想を持てる教育ワクワクできる仕組み作りが必要。その環境がないイコール、日本国家の衰退に直結していきます。

ただでさえ、日本は世界で最初に少子高齢化に突入する課題先進国で、「日本はどう乗り越えるのか」と世界が注目しているのに、7割の国民は積極的に戦おうとせず、このままやり過ごしたい、と。このままダラダラ生きてたら、日本は確実に衰退する。

連続的な進化なくして非連続的な進化なし。

その為にもまず自ら連続的に進化し続けないと、ですね(笑)

日本の歴史を紐解くと、約70年サイクルでターンアラウンドしています。ざっくりと70年前は終戦、その70年前は明治維新。2つの共通項は、国の存続に対する危機意識です。その時代の節目には、日本の進化させた挑戦者達がいた。

進化を望むヒトが集い、業を為す。

進化を望む業が集い、進化し続ける国を為す。

Public Affairs活動の幅は広く、そして深い世界ですが、明確な意志をもって持続的に活動できれば、目指す「産学官のシームレスな社会」は必ず実現できます。

―最後に、他に類を見ないキャリアを歩まれていますが、根底にある価値観について教えてください。

確かにあまり類を見ないですよね(笑)

何事も「正しい姿勢」で向き合い、進化し続ける「想い」を持って活動をする。

これは、アスレティックトレーナー時代から一貫して変わっていない私の価値観ですね。

この価値観の形成は、祖父による仏教の影響が大きいです。仏教では、そもそも人は八苦(生老病死含む)背負っていて、目的欲求がないと辛いだけの生き物なんです。

あまり知られていませんが、そもそも仏陀という呼び名は「目覚めた人」を意味し、梵語のボーディ(菩提)からきています。何かに気づいて定めた目的に進みはじめ、そして到達した人が仏陀=仏である、と説いている。つまり仏様は崇める対象ではなく、愚直に向き合い進化しようとする皆さんの心にもいるんですよね。

また、「想い」とは、相手の心を慮る気持ちを指しています。今の日本では、人生のビジョンも特になく、やらされ仕事で疲弊している人がとても多いですよね。相手の心を慮る余裕すらない。周りに生かされているはずの自分の人生なのに、本当にそれでいいのか。

何かに気付き、相手を慮りながら目指すべきビジョンに向かいワクワクしながら進んでいく。

そんな「進化するヒト」が増えるプラットフォームを作ることがフォースタのPublic Affairs活動であり、ひいては日本アップデートの実現に寄与できると信じています。

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