for Startupsに林佳奈という異才が加わった。大学時代にショービジネスの世界へ飛び込み、旧態依然としている現状に課題感を感じていたところに、テクノロジーでエンタテイメントを進化させたいと挑戦していた起業家・前田裕二に出会う。彼の目指す世界観に共感し、当時DeNAの会議室の一室にオフィスを構えたばかりのSHOWROOMに新卒第1号として入社した。
スタートアップならではのカオスな環境で仕事をする中で瞬く間にサービスは急成長し、誇らしさを感じる一方で、経営課題を解決できない無力な自分も痛感するようになっていた。誰よりも成長環境を欲する林が、次の挑戦にfor Startupsを選ぶまでのストーリーを紹介する。
中高生時代はシンガーを目指し、大学時代はライブ活動に明け暮れていた。周りが就職活動を意識し始める大学3年生の時にも、「このまま就職して“普通の社会人”になりたくない」という漠然とした思いがあった。というのも、大人から聞かされる“普通の社会人”の話は、愚痴や後ろ向きなことばかりで、決して仕事にワクワクしていないように見えたからだ。感情を消してレールの上をただ走ることは、ステージの上で思い切り自分を表現してきた自分の価値観とは真逆の世界に思えた。
“普通の社会人”になったら絶対に後悔する。大好きな音楽をやりきったのだと言える場所を探し、思い立ったその日に探して見つけたのが、とあるショーハウス。「音楽の甲子園」をコンセプトにしたその場所にはシンガーの卵が集まり、音楽で競いながら店づくりに取り組んでいるとのこと。すぐに面接にいき、その日から住み込みで働いた。
なぜ林はここまで本気でフルコミットすることにこだわるのか。それは、高校時代に味わった”孤独”からだった。
「高校時代は部活動が私にとっての全てでした。部長に就任し、バンドをやるからには武道館目指すぞ、という勢いで他の部員たちにも”本気”を押し付けて、同じ熱量を求めていたんです。当たり前ですが、全部員がそんなわけなどなく、もっと気軽に楽しみに来ていた。私についていけないと辞める部員も続出。当時、本気だったのは私だけでそれ故にたくさん衝突し、圧倒的な “孤独”を味わいました。志のもとに集った目的集団ではないので仕方ないのですが、この経験から、同じ夢を本気で追いかけられる環境に自分の居場所を作ろうと決めました。」
だからこそ就職活動をせずにショーハウスに飛び込んだときも、中途半端なことはしたくなかった。自身で退路を断とうと覚悟して、大学を休学。事実上ショーハウスにフルコミットで働くことになった。初期はシンガーとしてステージに立つも、この場所をもっと多くの人に知ってほしいと集客や店舗運営にも取り組むようになると、名刺の肩書きは「シンガー」から「営業主任」となっていた。その後、林は横浜の新店舗のオープニングを任され、やり遂げる。
新店舗のオープニングでは全てを任される。雑巾がけとビラ配りから始まり、やがて満席になる日も多くなってきた、と当時を振り返る。大学の休学期間は1年間に及んだが、シンガーとしてステージに立つことから運営側へまわったことで得た経験が、林の人生の転機となった。
「1人のシンガーとして届けられるメッセージは限られますが、ビジネスとして考えて仕組みにできれば多くの人に影響を与えることができます。自分がやりたいことは、エンタテイメントの可能性を広げていかに影響力を与えるか、ビジネスにするか ― だとわかりました。そして同時に気づいたのは、本気でやれば、働くということは生きがいになるんだということです。私が見てきた社会人の背中だけが働くことのすべてじゃなかった、結局、自分が世間知らずだったなと思います。」
本気で取り組むことで得られた、働くことの楽しさやビジネスとして影響力を持つことの意義。自分がやりたいことを、ビジネスを通して実現させると決めたのだ。そして同時に、本気で取り組むだけでは現状を変えられないと気づく。より大きな影響力を生むためには、本気を捧げる場所に”革命の機運”があるのか見極めなければならない。林はエンターテインメントにこそテクノロジーが必要だと感じた。
ショーハウスから身を引いた林は、復学までのわずかな期間に就職活動をすることにした。ここで運命的な出会いがあった。「就職活動では、音楽をやってショーハウスを作ってきたことが自信を持って語れることでしたが、それではほとんどの企業や担当者に刺さらず、難しい学生でした。だからといってやりたくないことに興味関心があるようにも振る舞えなくて。そんな中で、同じ志を持てる起業家と出逢いました。」
当時は『SHOWROOM』や起業家・前田裕二のことを誰も知らない。「前田さんは自ら、ビジネスとしてエンタメをどう成り立たせるかを話してくれました。ホワイトボードは数分で真っ黒。次から次へと話が展開して、かつ論理的。それを聞いてテクノロジーによって次の時代が必ず来る、これは絶対に世の中に必要なサービスだ、と思ったのです」見ず知らずのスタートアップに熱狂する林に、周りからは「もっと大企業にいくべきだ」とか「仕事は安定が一番だ」とか、危惧する声もたくさんあった。しかし、林は自分の直感と、前田氏の挑戦を信じ続けた。
「天才だと思いました。この天才起業家についていこう、どう転んでも絶対に後悔しない。なぜなら自分が本気になれると確信したので。そして、本当に変えたい世界に人生を捧げて熱狂することこそ私にとってはビジネスの真髄だと理解しました」。当時のSHOWROOMに新卒採用枠はなかったのだが、林の熱意は前田氏にも届いた。2017年4月、決意を旨に新卒第一号としてSHOWROOM社に入社した。
インターン時代から当時の売上ギネスを達成するなど、既に一人前に活躍していた林。社員になっても変わらず、ひたすらオーディション企画を考えては営業し、実現。『SHOWROOM』の成長につながる仕事なら、何でも挑戦した。「『SHOWROOM』はエンタメとITのハイブリッド。仕事はひたすらPCに向かっているときもあれば、映画やレコーディングの現場にも行きます。スタートアップなので、やりたいことは手を挙げれば何でもやれ、そこらじゅうに仕事が落ちていました。毎日が夢中なうちに過ぎ、とにかく刺激的でした」。
『SHOWROOM』も急成長していた。最初は、名刺を出しても反応は鈍く相手にされないこともしばしばだったが、次第に「『あのSHOWROOM』ですね」と、すぐに話を聞いてもらえるようになった。
「3年間でこんなにも変わるんだ、と思いました。私もSHOWROOMの一員として、成長を担ったという自信や誇りはあります。しかし一方で、自分自身の成長には不安を感じ始めました。サービスも市場も急成長していたので、自分の実力ではなく、前田さんの起業家としての力や、テクノロジーの凄さ、マーケットの潜在力に助けられた追い風だと思いました。例えるなら、自分が時速100キロで走っているのではなく、時速100キロの車に乗せてもらっているような…」。
急成長の一方で、いつしか「自分はこれでいいのか」という思いも芽生えていた。林はマネジメントの役割もこなすようになり、様々な組織や人にまつわる課題を感じる一方で、自分の無力さも実感。想いと熱量だけではもはや通用しなくなっていた。
「SHOWROOMをもっと良くするためには自分が強くならなければ」と思い悩んでいた林は、成長できる環境を探すために積極的に外部の人と会い始めた。そんな時に参加したfor Startups主催イベントでの出会いが、林に火をつけた。
「とにかく成長したい、働きたいと話したら、『同じ100時間を費やしても、どのマーケットで、どの会社で、どんな仲間と戦うのかによって見える未来は違う。テクノロジーと市場の波に乗り、その先頭集団で一流の人と一流の情報に囲まれなければ、大きな仕事も成長も成し遂げられないよ。』と言われて、自分の盲点に気づき、目が覚めたようでした」。その気づきを与えたのは取締役の恒田だった。わずかな時間の立ち話であったが、ビジネスパーソンとしての圧倒的な力の差を痛いほど感じ、すぐに恒田に再度会いに行った。for Startupsの掲げるビジョンと世界観は林の狭くなっていた視界を広げ、出会いからわずか4日後、入社を決意した。
「for Startupsは、人の無限大の可能性を使って勝たせるべきスタートアップを支援し、経営課題を解決していると知り、日々経営者と彼らの課題に対峙しているこの環境に飛び込みたいと思いました。世界に挑んでいる起業家から直々に学べるこの環境ほど贅沢な場所はないと思います。」
無我夢中で突き進むほどに客観視できなくなっていた自分。同時に自分が居た「急成長スタートアップ」という環境がどれだけ贅沢で恵まれていたのかも、痛感した。林は、大好きなSHOWROOM社を、もっと言えばあまたのスタートアップを、外側から良くすることに取り組みたいと強く思った。
「自分なら、起業家と働いた経験やスタートアップのおもしろさを実体験を元に伝播していくことができます。今振り返ってもその経験には感謝しかありませんし、大正解だったと胸を張れます。そして、流行の波に乗ることも大切ですが、『革命や流行を作り出した側の人間』にこそ社会的なプレミアがつくのだということをスタートアップでの経験を通じて強く感じました。
でも、世間的にはまだまだ違ったイメージを持たれていたり、その良さが知られていないんですよね。自分もスタートアップへ飛び込む時にたくさん悩んで迷ったのは事実。だからこそ、次は自分がその道先案内人となり、勝たせるべきスタートアップへチャレンジできる門戸を開いていきたいと思いました。それがきっと自分にできるスタートアップへの貢献だと思ったんです」。
チャレンジする人をもっと増やしたいと強く願っていた林は、入社から5ヶ月で自分の強みを生かし、エンターテインメント領域のスタートアップ企業のCFO、経営ハイレイヤーの決定を実現する。Aさんへの他社オファーは、数社あり年収も高いものが多かったが、林はスタートアップの可能性とエンターテインメント×テクノロジーの市場の魅力を自分なりに徹底的に調べ上げ、Aさんに対し、最新情報を3ヶ月以上伝え続けたことで、Aさんのチャレンジ心を掴むことができ、今回の支援が実現した。
改めてfor Startupsについて思うこと―。林は言う。「私にとって、for Startupsは渋谷のスクランブル交差点。例えばシンボルの一つでもある109など、交差点を囲む数々のお店は、スタートアップ企業たち。SHOWROOM社にいた私は、そういった特定の店舗の、いち店員として、あの熱狂をつくっていました。スクランブル交差点としてのfor Startupsはそれらスタートアップスの密集地であり、トレンドの発信源。スクランブル交差点に立てば、流行りの服がなんなのか、誰がどこのお店へ向かうのかがわかるのと同じように、for Startupsから見る景色は「今の日本の市場そのもの」です。「人」と「お金」の動きが見える場所。だからこそ、それらを俯瞰して、行きかう人を適切な場所に導く案内人になり得るのです。
交差点の周りに日本中で一番勝たせるべき店(=スタートアップ)を集め、できるだけたくさんの人を交差点に呼び込み、賑わいを生む。そして人が滞留しないように、最短最速で次のステップへと導いていきます。同じようにしてスクランブル交差点は日本のシンボルになり、あの場所は熱狂を作り出す中心地になりました。今では、世界中の人が見に来る素晴らしい観光資源にもなっている。for Startupsも、同じように日本の底力を上げ、世界に誇れるブランド価値を日本にもたらしたいと思います」。
交差点の一角で流行を発信する側にいた林が、今度は、その楽しさ、素晴らしさをより多くの人に伝え、スタートアップ全体を盛り上げる側に回る。時代を創り、未来を語る大きなfor Startupsという交差点から、また一つとてつもなく熱いストーリーの第2章が始まろうとしている。