2008年、新卒でファーストキャリアとなる会社に入社した杉本容啓。ところが、わずか3カ月で会社は解散。思わぬスタートになったが現場で泥臭い仕事もしながら、常に置かれた場で成果を出すことを目指してきた。その姿勢が、自ら進むべき道を切り拓き、for Startups(当時の社名はNet jinzai bank)の立ち上げに参画することになる。
「最初は、社内カンパニーとして作りましたが、立ち上げ後の一年間は、まったくうまくいきませんでした。試行錯誤の連続で、事業として成立するかもわからず、とにかく前に進もうともがいている状態でした」。杉本が口にするのは、今のfor Startupsからは想像もつかない立ち上げ当初、まだ組織の中の一事業部だった頃の話だ。
代表の志水雄一郎と杉本を含む3名で創業。当時、”日本の発展のために成長産業=インターネット領域に特化したタレントエージェンシーをやる”というおぼろげなイメージはあった。事業をやりながら、会社として具体的に何を目指し、何を成すべきかを模索していた時期だ。「志水が『もうダメかも』と弱音を吐くほどでした」と、杉本は当時の苦境を振り返る。その後、「日本の新産業創出を支援する」という目的を同じくするベンチャーキャピタル(VC)と出会い、連携して取り組むことを決める。そこでようやく「for Startups」というビジョンが明確になり、歯車が回りはじめた。
しかし、ビジョンの実現のためには、圧倒的に人が足りなかった。優秀な仲間を集めるために、杉本は、採用業務にパワーをシフトしていった。草創期の採用は「とにかく『これは!』という人に会い、自分たちの目指していることを一生懸命に語り、『一緒にやりませんか?』と伝えること。何しろまだ誇れるような実績はない、オフィスは狭い。こういう未来を実現したいという想いしかありませんでした」。想いの熱量だけは高かったためか、いつの間にか、奇跡のような優秀なメンバーが集まり始めた。例えば取締役の小原健。急成長期のグリーで、エース級の活躍をしていた人物だ。なぜか出会うことができ、社員10人未満の時期にfor Startupsにジョイン。優秀なメンバーが加わると、それが吸引力になり、さらに優秀なメンバーを引き付ける。奇跡が、いつのまにか再現性のある出会いに変わり、仲間が増えていった。
当初は、タレントエージェンシー事業のヒューマンキャピタリストをメインにやりながらの採用活動だった。ヒューマンキャピタリストとして杉本が支援した事例の一つに、マンションの一室で起業したメディア運営の会社がある。
「創業メンバーの3人が共同生活をしていました。リビングで、みんなで開発し、夜はそれぞれの部屋に寝に散っていくのです」。採用や経営などは二の次で、とにかく開発にまい進している会社だった。「最初は、ホームページから問い合わせをいただきました。資金もあまりないようだったのですが・・・、とにかく会いに行き、この会社を何とかできないかと思って支援した」。杉本は当時を振り返る。その後、VCから資金調達をして、その会社は大きくグロースする。今や高層ビルに本社オフィスを構え、社員数も3桁の規模に達している。その企業の成長に不可欠な組織メンバーの形成を杉本をはじめとする当時のメンバーたちで支えた。そのような事例はいくつもある。
for Startupsも、あまたのスタートアップと同様に、杉本を含む3人でスタートし、同じような軌跡を辿って来た。「仲間が増えることのありがたさは身をもって知っています。仲間が増えることで、今まで想像していた絵は簡単に描けるようになり、時に、想像し得なかった絵を描けるようになる。その一人が生み出す「可能性」と事業に与える「重み」を、僕ら自身が経験して感じている。だから、経営者がチームを作る上で柱となるコア人材の採用にこだわってやってきたのです」。ヒューマンキャピタリストとして、杉本は数々のCxO採用の支援をしてきた。
2017年から杉本は人事業務に専念。数々のスタートアップへの支援事例のように、for Startups自身の成長の起爆剤となる「人」の採用に注力している。「人」の力で、成長への軌跡は急角度で上がっていく。for Startupsがビジョンを実現するための影響力を発揮するためにも、常に新しい仲間を求めていく。
人事専任となり、2018年は33名の新たな仲間を迎え入れた。急ピッチで人数が増えたことで、for Startupsは今、これまでとは違ったフェーズに足を踏み入れている。杉本に、採用だけでなく、会社を創るという大きなミッションが加わった。現在は、組織のフェーズの変化に伴って起こり得る課題を予測しながら、対処方法やあるべき姿を探っているところだ。評価制度やカルチャーをプロジェクトチームを中心に全メンバーと共に見直し、for Startupsという会社そのものの再構築に取り組んでいる。みんなを巻き込みながら、みんなの意思を組み込んで、改めてバリューの策定から始めている。目指す姿は、「日本の成長を牽引する強いチーム」だ。
「僕らは、成功するスタートアップの原理原則はわかっている」。杉本は言う。数々のスタートアップを支援してきて、感じるのは「採用や組織づくりの責任者、あるいは経営者の視座が圧倒的に高い」ということだ。高い視座を持って事業の展開、会社の未来を描き、戦略を立てる。そして、それを実現するのに必要な「人」の重要性を理解している。成功のために決定的に重要な「人」を支援するのがfor Startupsだ。
杉本は続けて語る。「人、モノ、金の経営資源のなかで、僕らは人が大事だと考えて支援しています。for Startupsも人が大事。僕が連れてくる『人』が、この会社を良くも悪くもする。そして、新しくジョインするたった一人がチームに新しい可能性をもたらしてくれる」。「勝つチーム」にするために、絶対に必要な人を迎え入れ、その人がチャレンジできる環境を整える。もちろん、元々いるメンバー全員への目配りも大切。「自分の気遣いで会社のパフォーマンスが違ってくる」。杉本は、自分が担うミッションが、for Startupsの未来を左右するほど重要なものだと自覚している。
素晴らしいチームを作れば、その姿を見て、仲間になりたいと願う人も増えるだろう。マーケットにいる優秀な人がfor Startupsにジョインしたいと思えるほどの圧倒的に魅力的なチームを目指している。
最後に、杉本の経歴も紹介する。学生時代はバスケットボールに打ち込み、プロ入りも真剣に考えたという。バスケか就職かで迷い、就職を選ぶ。この経験から、悩んでいる人の相談にのり、チャレンジしたい人を応援する仕事をしたいと考えた。
杉本の仕事のモチベーションは、「子供たちのために良い未来を残したい。」と至ってシンプルだ。杉本は、3歳と0歳の子供を持つ父でもある。「日本で生まれ、日本人のアイデンティティを持って育った。だから日本を応援したい。世界で存在感を発揮する日本でありたい」と杉本は言う。社内は、杉本のように子どもを持つ父・母が多い。メンバーの思いは共通だ。for Startupsが支援するスタートアップの経営者たちもそうだろう。そのような思いを結集し、良き未来を創ることに当事者として関われることが、for Startupsの何よりの魅力だ。
採用担当者としては、この魅力を多くの人に伝えたい。しかし、杉本の目下の悩みは、for Startupsの魅力を届けたい人へ、まだまだ届けることができていないこと。
「お会いして、私たちが何を目指し、どのような起業家やVCとお会いしているのか、仕事を通じて何を社会に価値提供しているのか、また、ここでしか得られない成長の機会、そして、自ら手を挙げて自分の思いを実現する事業に取り組めることなどなどをお話すれば、共感していただける方は非常に多い」。
for Startupsの構想は大きく、これから実現させていくものも無数にある。その辺りはぜひ、直接聞いてほしいという。
一人一人との出会いによってfor Startupsの目指すビジョン、そして世界観の具現化が加速していく様を見てきた杉本は、今日もまた人と会い、想いを熱っぽく語り、未完成のパズルの完成を夢見て走り続けている。