学生時代、ベンチャー企業でインターンを経験した中田莉沙。没頭して働き、ビジネスの仕組みを知るにつれ、企業活動におけるお金の重要性を認識。新卒の就職先は大手証券会社を選んだ。意気揚々と入社するも、そこで感じたのは圧倒的なスピード感の欠如だった。社会に価値を残したいと思う中田にとっては物足りない場所だ。スタートアップへの転職を目指し、for Startupsに出会う。
「前の会社では、チェ・ゲバラと言われていました」と、中田莉沙が苦笑する。チェ・ゲバラとは、言わずと知れたキューバの革命家。新卒で入ってきた新人が、次々と「こうしたらどうか」と言ってくる。保守的な大手証券会社で、周囲は少々持て余し気味だったのだろう。
中田は学生時代、ママ向けのサービスを展開するコネヒト株式会社とオンライン英会話サービスを展開する株式会社ベストティーチャーでインターンを経験した。インターンの立場ながら企業活動全般に関わり、そこで、企業活動にとってリスクマネーがいかに重要であるかを痛感し、「日本の金融を変えたい」と強く思って大手証券会社を就職先に選んだ。
ところが、入社後は、ベンチャー企業と保守的な大手企業の違いにカルチャーショックを受ける。「まずスピード感が違います。業務効率、ITリテラシーも差がありました。もちろん違いがあることは理解して入社していますが、エクセルで共有して、同じことをホワイドボードにも書き込むような世界には驚きました。」中田は言う。働く中で、色々と改善案を出すも、返ってくる反応はいつも同じ。「それは君がやることではない」。中田の営業成績は良好で、仕事でも十分に成果を出していた。プラスアルファで作業環境の改善を働きかけたものの、反応は今一つだった。
「実際、周りを見ると、トップ層が『変えたい』と言ったことですら、変わるのに何年もかかる。今は違和感を持っているけども、このままここにいたら、このスピード感に染まってしまうと思いました。前職をとても良い企業だと思っているし、社会的意義も、人やデータやお金も十分あると思っています。ただ、私がそこで変革の鐘をならし、社会的影響を与えられるのは、数十年間もの時間をかけた後です。そして私は、その数十年かけた末に与えられる影響と比較して、起業するか有力スタートアップにジョインした場合の数年間の方がより世の中に価値を提供できると思いました。」『結局、何もできなかったね』で終わりたくない、と猛烈に危機感も覚えた中田は、転職を決意した。
転職はスタートアップ企業へと心に決めており、特にシードのスタートアップにジョインすることを求めていた中田は、TwitterやFacebookで興味のある企業の代表にDMを送った。一風変わった転職活動だった。「命をかけたいと思えるような経営者か、本当に心からやりたい事業なのか、軸は2つでした。」と中田。そんな前のめりな思いで始めた転職活動だが、なかなかそのような思いを持てる企業とは出会えなかった。そんな中、元インターン先の代表にもらったアドバイスが、「スタートアップへの転職ならfor Startupsに相談してみたら」というものだった。そして相談に訪れたはずが、いつのまにかにfor Startupsへジョインすることに。「当初、for Startups自体には、まったく興味がありませんでした。むしろ『人材業界だけには行きたくない』と拒否感を持っていたほど」と中田。だが、話を聞いてみると、「人材」の会社ではなく、「成長産業支援のプラットフォームをつくる」という構想にピンと来た。
「元々、証券会社に入ったのは、リスクマネーがスタートアップに流れることで、成長を支援したかったから。for Startupsは、私がやりたかった支援を、『マネー』ではなく『人』でやる。手段が違うだけで目指す方向性は一致していました。ビジョンに共感でき、しかも有力な起業家、VCと双方向で、両者の中心に立って活動できることにも意義を感じました」。
for Startupsは、「世界で勝負できる産業、企業、サービス、⼈を創出し、⽇本の成⻑を⽀えていくこと」というミッションに基づいて、人の支援だけではなく、起業支援、戦略的資金支援、情報プラットフォームの展開など、事業領域を一気に拡大しようとしているなかで、中田の思いやfor Startupsの方向性など、様々なピースがピタリとはまった。
期待を胸にジョインしたfor Startupsは、前職とは正反対の世界だった。前職は、尖っていると周りから疎ましがられた。しかしfor Startupsは「むしろ尖り続けないと埋もれてしまう」。中田は言う。「それが時にきついけれど、今の方が生きやすいです」とも。ここでは誰も「それは君がやることではない」とは言わない。口に出したら自分で責任をもってやりきるのがfor Startups流だ。
現在、中田はエンジニアのキャリア支援に注力している。自ら志願した仕事だ。というのも、「スタートアップがグロースするにはエンジニアの力が不可欠だ」という信念があるからだ。インターン時代、エンジニアイベントの開催や、エンジニアが中心となって会社を盛り立てる様子を見てきた。自社のプロダクトで社会課題を解決し、「未来を創る」経験を、より多くの人に広めたいという思いもある。
エンジニアの転職は、一般的に知人の紹介によるケースが多い。そのような状況がある中、「傲慢な言い方になってしまいますが、友達はあなたをよく知っているけれど、マーケットのことは知りません。でも私たちは、マーケットも、今後の社会に寄与する最新のテクノロジー領域もキャッチアップしていて、どこであなたが輝くかを提案できるところが強みだと思います」と、中田は言う。
直近では、エンジニア支援に関する新規プロジェクトをゼロから立ち上げ、これから益々、企業やセクターが成長し、その人自身の価値を高め、存分に発揮される世界を目指し、中田は活動中だ。自分の信じることに真っ直ぐに――前職では得られなかった手応えを得ている。
金融機関出身というバックグラウンドを活かし、注力しているもう一つの領域がフィンテックだ。『PayPay』の祭りは記憶に新しいが、各社ともキャッシュレスの決済サービスを起点に、縦横無尽に広がる金融サービスを展開しようとしている。米国や中国のように、本格的な金融×ITのサービスが、日本でも勃興しつつある。そんな業界の動向、海外の事情を研究し、社内に広めるのが中田の役目だ。
for Startupsでは、それぞれのバックグラウンドに基づく得意領域、あるいは関心を持って取り組む「推し」の領域の知見を発信し、共有する活動が盛んだ。年齢も社歴も関係なく、フィンテック領域では中田が先生だ。華々しい経歴を持つメンバーたちが、真っ新な状態で話に耳を傾け、貪欲に吸収する。その謙虚に学ぶ姿に感銘を受け、同時に「自分ももっと学ばねば」と思う。
学ぶ環境も素晴らしい。メンバー同士の知の共有のほか、日々、日本を代表する、または、これから日本を代表する存在となり得る起業家やVCがfor Startupsを訪れ、様々な話を展開していく。「毎日、所謂 ”すごい” 方々がfor Startupsに集まります。本当に刺激的です」。このような日々に、中田は「時間が足りない」と笑う。ただ漫然と話を聞くのではなく、吸収し、それをもとに何かを成したいからだ。
社会に出たとき、中田は世の中を変えたいと思った。その思いは、今もずっと追求し続けている。「どれだけ社会に価値を残し、評価されるか」、「自分の名前でどれだけ市場に求められるか」。中田の目は常に社会へと向いている。そのなかで価値ある人になりたいと願う。そのためには「他人が1回しかチャレンジしないなら、私は10回チャレンジしたい」と勇ましい。大手証券会社で周囲から浮いた「ひたむきさ」は、for Startupsでは好ましい個性と受けとめられた。ぶつかりもがきながら、中田は前へ前へと進んでいく。