インターンを経て、2019年4月に新卒第一号として入社した山下太地。『Wantedly』でfor Startupsを見つけた瞬間から、「ここしかない!」と確信していた。交換留学でアメリカに行き、シリコンバレーを見て回るなど行動力にあふれ、大企業の採用担当者から見ても魅力的な新卒だったに違いない山下。彼が、どのような思考と行動を経てfor Startupsの新卒第一号になったのか。今日に至るまでのストーリーを聞いた。
「高校3年時、日本の大学に存在意義を感じなかった」。山下の口から過激な言葉が飛び出す。社会への入口のはずなのに、ほぼ意味をなしていないように見えたからだ。他方、「アメリカの大学は将来へのステップとして、新卒採用事情が違うというのはありますが、合理的です。本当はアメリカの大学に行きたかった」。とはいえ経済面などの問題もあり、断念。周りに流されることなく、将来に向けて4年間を有効に使うことを決意して、日本の大学に進学した。
進学は叶わなかったが、大学の交換留学生制度の選抜をパスし、大学3年生の一年間をアメリカの大学で過ごすことに。これが、後につながる大きな経験となった。留学先の大学は、専門的な講義内容と、ディスカッション主体のアクティブラーニングの授業スタイルの洗礼を受ける。慣れない英語に膨大な予習量と、大変な苦労をすることになったが、山下はやり遂げた。1学期が終わるころには慣れ、英語のレベルも随分と上がっていた。
その頃、SNSで見る同級生たちは就職活動に明け暮れていた。「SNSで友人たちは、インターン行ったり、就職活動を語ったり…。一方で、自分はただ勉強しながら過ごしている。『やばいな』という焦りは少しありました」。だが、それをプラスに転じるのが山下だ。活動の幅を広げようと決意し、シリコンバレーに行ってスタートアップの熱気に触れたり、自分でアポ取りをして人に会ったりしているうちに、いつしか焦りは消えた。
特にシリコンバレーの経験は鮮烈だった。「明らかに日本と勢いが違う。日々、無数のスタートアップが生まれます。テクノロジーを使って世界を変えようとしていることが、純粋にカッコ良かった。メチャクチャすごい!率直にそう思いました。その経験が、その後のモチベーションのエンジンとなりました」。
アメリカで充実した日々を送るなかで、感じたことがあった。「行くときは、アメリカで働くのもアリかなと思っていました。でも向こうで、逆に日本の素晴らしさを知りました。日本人というだけで信頼され、日本人が好きだと言われ、いろいろな恩恵を受ける。日本はすごいと思いました」。
「でも…」と山下は考える。これらの好印象や良き「日本ブランド」を作ってくれたのは、昔の人たちだ。高品質なものづくりで世界から憧れられるブランドを生み出してきた。一方で、今はどうか。「日本は課題先進国。世界に先駆けて少子高齢化の問題に直面し、経済見通しも明るくありません」。今の日本に思いを馳せると、山下は猛烈に「何とかせねば」と思った。「でも、どうやって?」。この問いが、その後の山下の軸になる。
気になったのは、やはり教育だ。教育への問題意識が、アメリカに関心を持つきっかけになった。留学時代は、幼稚園や小学校を訪ねて見学させてもらったこともある。「日本は、高校までの基礎学力は高い。それをいかに創造性につなげるか、という点に課題があると思いました。日本の学生は、基礎学力はあるのだから、そこに適切なモチベーションを生じさせる働きかけが必要なのではないか」。その課題感から、教育関係やエドテックベンチャーなどへの就職を考えた。帰国後、実際にいくつか回り、内定ももらっていた。
が、熟考の末、断った。理由は、教育をビジネスとすることの難しさだ。山下は言う。「例えば教育×ITのEdTech(エドテック)も、上場したところは、総じて時価総額は高くありません。この年代で教育領域に行くと、ビジネスメイクの力が育たず、経済的な余力も持てないと思ったのです」。振り出しに戻り、教育以外に視野を広げることにした。となると、かなり広範に見る必要がある。山下は大学を休学することにした。
休学の目的は経験値を上げること。過去に、上場企業のオフィスでアルバイトをしたこともあるが、得られる経験は乏しかった。そこでスタートアップで探すことに。シリコンバレーの記憶も新しく、スタートアップなら濃い経験ができそうだと考えたのだ。そして、山下曰く「何気なく眺めていた『Wantedly』で、NET jinzai bank(for Startupsの旧社名)が飛び込んで来た」。
当時から「日本を勝たせる」と謳い、成長産業支援のビジョンを打ち出すNET jinzai bankに、「ここしかない!」と山下は思った。まさに自分の考えていることそのものだった。直感は正しく、「インターン初日から、メチャメチャ入りたいと思いました。2日目には、ランチをしながら『インターンから新卒のルートはあるんですか』と聞いたほど」と、笑いながら振り返る。
インターンの仕事内容は、現在の『STARTUP DB』の前身にあたる企業データベースのコンテンツ制作がメインだが、自ら志願して新規事業立案にも携わった。スタートアップに価値提供できる事業を創出するために、スタートアップの課題を探り、アイデアを出す仕事だ。「学生です」と名乗って積極的にアプローチし、アポをとっては、スタートアップ経験者から課題に感じていることなどを聞き出した。リサーチし、アイデアを持っていくと、当時新規事業立案の責任者は「ダメだな」、「いいんじゃない」と即答する。自主性に任せるスタイルで、その先は山下自身が考え、行動することを求められた。「インターン時代の1年半を通じて、これが最も濃い経験でした」と山下。苦労した分、得たものも多かった。
「新卒の就職は、就業経験がない分、ボヤっとしたイメージで活動しがち。ミスマッチも多いです。インターン経験とは、解像度をクリアにするものだと思います」。山下は、よりクリアになった視界で、改めて入社の意思に変わりがないことを確認。2019年4月、改めて新卒第一号としてfor Startupsに入社した。
いわゆる「新卒切符」を迷いなくfor Startupsに使った山下。後悔は微塵もない。山下の持論は「やりたいことをやるのが幸せ」。そして山下のやりたいこと=「日本をどうにかしたい」は、見事にfor Startupsのビジョンと一致する。この幸福なマッチングを可能にしたのは、山下の活動量だろう。日米でスタートアップを見て回り、アポをとって人から話も聞いた。それらを経てクリアになった目が、ピンポイントでfor Startupsを見つけた。
社員という立場になり、問題意識もよりシャープになっている。改めて感じるのは、「ロールモデルを増やすこと」の重要性だ。「メルカリは一つのロールモデル。でもこのような例は多くありません。スタートアップに飛び込んで、やりがいと経済合理性を両立させ、人生を満喫している―というモデルを、僕らは一社でも多くつくる必要があります。その成功例が伝播し、みんながインスパイアされることで、結果として人が集まり、スタートアップが多く生み出され、産業が興り、国の力につながる」。それが自分の役目と、改めて認識している毎日だ。
山下自身も、インスパイアされることばかり。「この環境は本当にすごい。日本を代表する起業家や投資家の話を伺うことができるのですから」。シリコンバレーで体感したようなスタートアップの最前線が、日本では、このfor Startupsのオフィス内に凝縮しているようだ。もちろん、ついていくのは大変だ。他社で働いた経験も、自分で事業をやった経験もない一新卒。圧倒的な知識不足を感じ、寸暇を惜しんでインプットに励む。
かつての自分のようなインターン学生にも、どんどん来てほしいという。「ここに来れば、いろいろなことが見える。産業構造の変化、市場の波…。ビジネスメイクとしてもキャリアメイクとしても、有用な情報にあふれています。真剣に将来を考えていて、能動的に取り組める人なら、得るものは多い場だと思います」。学生の彼らには、山下がロールモデルとなるだろう。彼らをインスパイアする存在となるべく、新卒一号として奮闘中だ。