社内カンパニーを経て、2016年9月に創業したフォースタートアップス株式会社(以下、フォースタ)。これまでスタートアップへの累計人材支援数約2,000名のうち、32.5%がハイレイヤー、幹部クラスの人材を紹介することで、日本の再成長を担う成長産業を支援してきました。入社後、キーマンとなった彼らが活躍し、爆発的な成長を成し遂げたチームは少なくありません。創業から5年経った現在、そのように支援した数々のチームが上場企業やユニコーン企業になっています。
今回、紹介するのはその一つ、「社会の非合理をハックする」をミッションに、アナログで複雑な人事·労務業務を効率化するクラウド人事労務ソフト『SmartHR』を展開する株式会社SmartHRです。現在、『SmartHR』は効率化の次のステップへ、蓄積されたデータを活用した組織課題解決などすべての働く人を支えるプラットフォームへと進化中です。
代表取締役の宮田昇始氏、マッキンゼー&カンパニー、楽天などを経てジョインした取締役COOの倉橋隆文氏と、弊社代表取締役 志水雄一郎、シニアヒューマンキャピタリスト 森心之介の4人で、これまでの歩みとこれからについて語り合いました。
プロダクトの魅力×採用への強い思いが素敵な人材を引き寄せた
SmartHRとフォースタートアップスの出会いは?
志水:2016年、私たちが創業した頃からのおつきあいです。そこから、当時まだ社員20名の頃に倉橋さんをご紹介したことがフォースタとしても好機となりました。当時、私は『SmartHR』がプロダクトとしてすごいのか、すごくないのかはあまりわかりませんでした。でも、倉橋さんが色々お話がある中で、ほかを蹴ってSmartHRに入ることを決断したとき、私はこの会社の未来を確信しました。
結果、倉橋さんも、弊社が欲しくて口説いていた玉木さん(SmartHR CFOの玉木諒氏)も御社に行きました。この2人を採用できたら、もうあとは勝ちストーリーになるなと。その後、VPoP、VPoMも弊社から紹介しましたが、このような素晴らしい人たちをご紹介したのは、宮田さんに人をたらす能力があったからです。
宮田:ありがとうございます。僕らは、初期の頃はお金がないので、エージェントさんを使うのは勇気がいる行為でした。なので、リファラルで知人、友人を採用したり、月額数万円の採用媒体に出稿したり、手探りでやっていたんです。そんななかで、滅多に出会えない人がフォースタさん経由だとたくさん来てくれるので、「これはメチャクチャすごいな」と。僕らにはリソースがないし、いろんなエージェントさんに頼るよりはフォースタさんに一点張りでお願いしようと決めたのが、最初の頃の話ですね。
テレビCMで、「この人もこの人もすごい経歴だ。おい、一体これはどうしたのだ?」というのがあるじゃないですか。まさにあれがリアルで弊社の会社の中で起こっていて、「フォースタです!」というやりとりが多かったのをよく覚えています(笑)。
志水:あと、宮田さんは学ぼうとする力や進化しようと思う気持ちが、ほかの起業家よりも強いタイプだと、私は思っています。一方で、そうであればあるほど多分、ストレスフルな人生を生きているはずで、だから孤独になってしまう。ただSmartHRさんは、宮田さんを支えられるCOOやCFOに魅力的で素敵な人がいるという点で、これからもSmartHRさんは伸びていくと確信しています。
この先もきっと進化していくでしょうが、ずっと私たちはおつきあいしたい。CXOから順番に組閣するという、フォースタの支援の仕方の代表例でもありますし。弊社のメンバーも宮田さんに釣りなど、いろんなところに連れていってもらっていて、そこで話を聞いて、それが刺激になってスタートアップ支援を素晴らしいと思えるメンバーがたくさん育っているので、領域は違うけれども、今後も日本の進化のなかで共に伸びていきたいと思っています。
COO倉橋氏がジョイン。プロダクトとビジネスのバランスが絶妙な良き社風をつくる
倉橋さんはフォースタの紹介でSmartHRに入社されました。応対したのは志水社長でしたが、印象などは?
倉橋:最初はびっくりしました。私より先に転職していた前職の先輩に相談したら、「いい人がいるから紹介するよ」と言われて、それが志水さんだったんです。すぐに連絡をいただいて、フォースタさんのオフィスにお邪魔して1時間ほど話したんですが、とても不思議な体験で。1時間のうち私は10分くらいしか話していなくて、ずっと志水さんが話しているんです。私の見定めをされる場かと思っていたので、不思議だなと。でも、そのあとご紹介いただいた会社がどこも私にとってドンピシャで、その中にSmartHRもありました。
多分、志水さんは特殊能力があるんだと思います(笑)。志水さん、あのとき何を見ていたんですか。
志水:ストレートに言うと、私は、スタートアップ業界に日本の労働力を全部もっていきたいという思いだけなんです。見定める必要はありません。エージェントやヘッドハンターの多くは要望を聞いて、これからの世界で勝つ方向に導くのではなく、過去の序列を基にマッチングしがちです。その結果が今の日本の惨状で、日本は、世界でもっとも競争力が下がった先進国になった。希望を聞いている場合ではないんです。成長産業にオールインさせなくてはいけない。だから我々は、エバンジェ(エバンジェ=伝導する)しているんです。
倉橋:なるほど…
志水:倉橋さんは、もちろんとても優秀な方で、素晴らしい経歴をお持ちで、私にとっては、次にどこで開花させるかがキーでした。で、ご紹介先の一つがSmartHRさんだった。当然、いくつもの会社からお声がけされていたんですけど、SmartHRさんを選ばれました。
なぜSmartHRを選ばれたのですか。当時の印象なども教えてください。
倉橋:理由は、大きくは二つ。一つは、事業の将来性をとても感じたこと。当時、宮田に「SmartHRは勝つ。勝ちか大勝ちできる会社だ。絶対波が来ます」と言って、実際にそうなりました。思い描いた通りの勝負ができています。
もう一つがカルチャー。SmartHRの経営陣、経営スタイルが、とことん任せるもので、それが私にとって、心地良かったんです。内定を頂いたときも、宮田が「僕は元々Webディレクターで、ビジネスのことはわからないながらもやっています。入ってくれたらビジネスサイドを任せます」と言ってくれて、それがとても嬉しくて。で、今、本当に任せてくれていて、自由にやらせてもらっているし、私自身もいろんな人に権限移譲しています。
倉橋さんのご入社で、SmartHRはどう変わりましたか。いなかったらどうなっていたでしょうか。
宮田:いなくても倒産はしなかっただろうし、ほかのCOOを採用しても、きっとそれなりにうまくいったでしょうが、今のような会社の雰囲気にはならなかったと思います。
COO採用でこだわったのは、会社の空気、カルチャーへのマッチです。幸いにもCOOのポジションを探すとき、初期の頃から素晴らしい経歴の方がたくさん面接に来てくれました。でも、どことなく「来てやっている」感を隠せない人が多かったです。そのような人がビジネスのトップにつくと、私を含めプロダクト開発をバックグラウンドに持つエンジニアメンバーは、萎縮してうまくコミュニケーションをとることが難しいだろうと感じました。なので、そのような少々偉そうな人には、もちろん経歴やスキルを見るととても欲しいと思ったのですが、オファーを出しませんでした。
その点、倉橋は経歴、能力はもちろん優秀で、人柄もエンジニアたちに好かれそうで、うまくやってくれそうな雰囲気を感じ取れました。実際、入社してエンジニアたちと本当に仲良くやってくれています。社内ではよく、「プロダクトとビジネスのバランスがとれていて、両者がコミュニケーションできている珍しい会社だね」という声が聞かれますが、これは倉橋のおかげだと思っています。
成長に併走。アートからサイエンスへ転換し、4年で社員は20名から500名へ
志水:私は倉橋さんのことを、「weapon(武器)を送ります」と言いましたね。御社にとって強力な武器。
宮田:はい。例えば、それまで僕が事業計画を作っていましたが、本当に素人なので、株主に「これは事業計画ではなくて頑張る目標だ」と言われたくらい(笑)。倉橋が来てくれたおかげで、ちゃんとした会社になれています。
志水:確かにそれまでは、『SmartHR』はBtoBのSaaSビジネスなのに、どこかC向けのようなマーケティング手法をとっていたり、そのような点がほかにも垣間見られましたが、倉橋さんが入られて、進化が生まれたと思います。このようなひとりのアサインメントが時代をつくるかもしれないし、御社がグロースするきっかけをつくったのではないかと、私はそのように見ていました。
宮田:よく言われるのが、SaaSの世界は年間のサブスクリプション売上(ARR)1億円まではアートの世界で、そこから先はサイエンスの世界だと。倉橋が来たのは、ちょうどARRが1億円になる直前でした。それまでは勘と経験がものを言うものづくりの世界で、ビジネスの第一歩目を踏み出したところでした。これからセールス&マーケティングの活動を増やし、もう少し科学的にビジネスプロセスを回そうとしていたところに倉橋が加わり、アートからサイエンスへの転換がよりうまくいったと思います。
社員数も大きく増えました。この成長にフォースタはどの程度貢献できたでしょうか。
宮田:20人くらいだった社員が今は500名。その約10分の1、約50名がフォースタさん経由です。圧倒的ナンバーワンです。
志水:不満だなあ。500人だったら3分の1くらいはウチからじゃないと。そこまでできてないのはフォースタ側の課題なので、改善しないといけません。
倉橋:ご紹介いただいた方の内定承諾率でいうと、さらに圧倒的です。それだけ弊社を理解して、合った候補者の方を紹介していただいているので、これが倍になるなら本当に嬉しいですよ。先ほど「エバンジェる」という言葉が出ましたが、恐らく、それで候補者様も弊社の事業特性や状況をよく把握してくれている。だから、他所のエージェントさんと比べても本当に合う方をご紹介いただいているように感じています。
フォースタとしてはどのような取組をしていますか。
森:私がフロントとして担当に入ったのは2018年5月頃で、以後、意識してやってきたのは、事業と組織の現状と未来のギャップの解像度を上げる作業。とにかくそれを繰り返しました。宮田さん、倉橋さんなど経営層をはじめ色々な方のお時間をいただいて、常に「今どうなっていて、これからどうなりたくて、その差分はなんですか」という話をしています。それが高いマッチ度につながっているのだと思います。
あとは、当初は社内でも『SmartHR』の良さがわからなくて、「SMB系で、しかも労務管理でしょ」という認識の人が多かった。なので、そうではなく「人事データを活用することこんな広がりがある」という話も意識して社内でしていました。未来像をうまく訴求できないという課題は、SmartHRさん側にもフォースタ側にもあるので、その差分を埋めるために、宮田さんとベンチャーキャピタリストの方を呼んで、オフィスで勉強会もしましたね。
宮田:2018年頃からは四半期に1回、お邪魔して事業説明のプレゼンをやらせていただいています。プレゼンをすると、やはり事業の理解度が深まるのか、紹介していただける数が増える。我々自身が初期の頃、採用で困っていたのは「業務用ソフトです、しかも人事業務の」と言うと、興味を持たれないこと。そこをどう興味を持ってもらえるか、自分たちが苦労するならフォースタさんはもっと苦労するだろうと思ったので、候補者の方にうまくプレゼンしてもらうために、いろんな切り口で事業の説明をするなどしてきました。また、弊社の株主3名と、弊社とフォースタさんでディスカッションをしたこともあります。
社会のインフラへ。日本の労働力人口減少に真っ向から挑むサービスを目指して進化中
今後の展望もお聞かせください。
宮田:我々も今年、ユニコーン企業と呼ばれるものになり、スタートアップとして一つのマイルストンは突破しました。それでも『SmartHR』に登録されている人事データは、日本の労働人口に対して1%ほどで(2021年10月末現在)、まだまだ、世の中の人たちに使ってもらっているとは言い難い状況です。
社内では、よく「社会インフラ」というフレーズを使います。「この会社のサービスを使わずに1カ月生活するのは難しいよね」というものになりたい。例えば「JRさん」や「味の素さん」なんかはそう。ウチは、まだそのレベルにはほど遠いです。いつかは社会インフラに、『SmartHR』を使わずに1カ月間働くのは無理だという状態になれるといいと思います。そうなるには、やれることをもっと広げないといけないし、社員の数ももっと必要です。フォースタさん経由の入社が10%という比率も、もっともっと高くなってほしい。
データ活用という点では、どう進化していきますか。
倉橋:社会課題の話からすると、日本の労働力人口は減り続けます。これは確定で、となると一人あたりの生産性を上げなければいけないし、少しでも働く人の数を増やすためには、多くの人にポジティブな気持ちで働いてもらわないといけません。これは、この先40年間、日本が豊かであり続けるために、解かないといけない課題です。
『SmartHR』は、今までは人事業務の生産性向上を目指しましたが、副産物として従業員さんのデータが貯まっています。データは今後、日本企業において事業を進めていく上でとても大事なもので、我々が今、注目しているのは人材マネジメント領域です。例えば給与推移や退職率、人員構成などを可視化するツールや、従業員へのアンケート配信·分析機能など、会社の組織状態や、従業員が幸せに働けている会社なのかどうかを、よりわかりやすくするサービスを既にスタートしています。どれも、より従業員が活き活きと活躍できる会社を増やしたいという意図を持って進めています。
先日は新たに「人事評価」機能をリリースしました。評価と給与決定は従業員様にとって重要な事項ですが、工数がかかって負担が大きい。それを効率的、効果的に行いデータも蓄積する機能です。このように、『SmartHR』で蓄えたデータでより良い職場、環境づくりにも貢献できるように、まさに今、進化中です。
宮田:あとは最近、スタートアップ全体をよくするような新規事業をやろうと思っています。内容はまだ言えませんが、「スタートアップのために」という部分でいうと、フォースタさんとは、もう少しビジョンのところから親和性が上がるかもしれませんね。
森:それはぜひ、一緒にやっていきたいです。
採用は何よりもカルチャーマッチを重視。細やかに社員に目配りする社風
最後に採用ポリシーなどもお聞かせください。
倉橋:カルチャーマッチをとても重視しています。先ほど、COO採用の際に能力はあっても採用を見送ってきた話がありましたが、それは全社員に共通しています。カルチャーが合わないとお互いに不幸ですから。加えて採用で特徴的なことは、希望年収や前職年収を聞かないことですね。
宮田:希望年収を聞くと、どうしてもそれに引きずられると思ったからです。入社後の序列につながったり、あるいはお互いの給与がわかったとき、前職の年収で決めていると現在の活躍ぶりと一致しないこともあり、後々、組織がゴタゴタする要因になります。最初は、とても欲しい人に来てもらえなかったり、内定承諾率が下がったりするのではないかと心配だったのですが、結果的に承諾率は10%程度しか下がりませんでした。10%なら、将来の組織のゴタゴタを考えると飲み込める範囲です。
ちなみに給与レンジごとの人数分布は、社内外にオープンにしています。内情と外から見た姿でギャップがあると中の人のテンションも下がるので、採用においては話を盛らないように気を付けています。
倉橋:パラシュート採用もないですね。これもこだわりだと思います。私のときも、あくまでも「COO候補」。ほかの役職者もそう。候補として入り、社内でもそう紹介されて、一緒に働いてみて全員が納得してから役職に就くスタイルをとっています。これも大事なことだと思います。やはり、一緒に働いてみて初めてわかりあえることがあると思いますから。
ただし、「役職がないならイヤ」という候補者さんも一定数います。内定承諾率は1割~2割は下がっていると思いますが、それより納得感ある組織編成ができることを重視しています。そもそも「役職がないからイヤ」という人はカルチャーフィットしませんし。
森:全般的に「人」に関してはとても大切にしていて、時間も使っていますよね。
倉橋:そうですね、ものすごく人に時間使っています。経営陣は毎週1回1時間、経営会議で集まるのですが、これとは別に毎週1時間半、人事定例という会議もやっています。大体、経営会議は早く終わって人事定例は伸びる。それぐらい時間をかけています。人事定例では、評価制度を常に改善しています。「今後3年間で従業員1000名を超えてくると、今の仕組では耐えられないからこうしよう」といった話をしています。
あとは1on1。評価者と被評価者の1on1は2週間に1回あり、仕事の状況、職場の状況、コンディションチェックをしっかりします。チームによってはスキップレベル1on1といって、直接の評価者を1つ飛び越えた人との1on1も月一で。従業員からすると相談する人が2人いて、これは大事なことだと思います。
森:都度、課題を解決されながら、これからもっと大きくなっていくのですね。我々としても人数はもちろん、御社が新しいチャレンジをするにあたり、そのチャレンジや成長をけん引する人材を、ポジションに限らず、質の部分で価値貢献できるように引き続き頑張っていきます。まさに、共に進化の中心へ。よろしくお願いします。
志水:今、SmartHR様を支えていらっしゃるベンチャーキャピタルの皆様がいますが、彼らは、グロースファンドのチーム以外は、IPOすると離れてしまいます。でも、HRの事業者はIPOまでのつきあいではありません。世界で勝つまで併走するのが仕事なので、お互い存在する限りは永遠のパートナーでいられるように、私たちは努力したいと思います。よろしくお願いします。
宮田·倉橋:ぜひ、よろしくお願いします。
取材のご協力:株式会社SmartHR
インタビュー/撮影:山田雅子・塩川雅也