習慣化プラットフォームと医療のシナジーで社会課題解決へ フォースタートアップスが創出した異業種融合

2023-03-16
Case Study
習慣化プラットフォームと医療のシナジーで社会課題解決へ フォースタートアップスが創出した異業種融合

株式会社WizWeは、「習慣化プラットフォーム」を展開する会社です。習慣化プラットフォーム『SmartHabit』は、学習や運動など継続に努力が必要な領域において、プラットフォーム上でサポーターからフォローを受けることでモチベーションを維持し、行動を継続させるサービスです。語学学習などのサービスに付加して利用されていますが、その対象はフィットネス、ヘルスケアといった領域に拡大しつつあります。膨大なユーザーの行動データを検証し、日々進化を重ねながら、『SmartHabit』を軸にさまざまな社会課題の解決に挑戦している会社です。

ともに挑むパートナーが、「インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らす」と宣言するエムスリー株式会社。国内31万人以上の医師が利用するプラットフォーム『m3.com』や海外600万人以上の医師会員・調査パネルで医療の変革に挑戦する、日本を代表するメガベンチャーの一つです。同社のリソースに習慣化プラットフォームを掛け合わせることで、未病、予防、服薬などの領域でさまざまな価値を創出できると考え、2023年2月にWizWe社への出資を行いました。

この両社が、当社資本業務提携支援サービスを通じて業務提携を行いました。フォースタートアップスがつないだ今回のご縁。既に何度も打ち合わせを重ね、協業に向けて動き出している両社に、出会いのきっかけや今後の展望などについて話を聞きました。

株式会社WizWe

代表取締役CEO

森谷 幸平 氏

執行役員CFO 

HRプラットフォームカンパニー語学ソリューション部長

財務戦略部長

津野 大紀 氏

エムスリー株式会社

事業開発グループ ディレクター

CVCチーム チームリーダー

近藤 一行 氏

フォースタートアップス株式会社

アクセラレーション本部 オープンイノベーショングループ 資本業務提携支援担当 宮本 健太

広がる可能性。未病、予防領域での習慣化プラットフォームの効果に期待

▲株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平 氏

—— 最初に事業内容を教えてください。

森谷:我々が手がけている習慣化プラットフォーム事業は、簡単に言うと、三日坊主を防止するためにサポートするサービスです。行動の持続には人による伴走が効果的で、これは学術的にも証明されています。一方で、一対一で伴走すると金額がかさむという問題があります。我々はテクノロジーの力で、一人の伴走者がフォローする人数を一気に拡大することで、この問題をクリアしました。プラットフォーム上で、サポーター1名が最大で1カ月3000人に伴走できるようにしました。すると1カ月あたりの費用は数百円になり、多くのサービスに付加することができます。このような事業を行っています。

元は語学のe-ラーニングをやり切るために開発した手法で、専属のサポーターが伴走し、フォローの声がけや情報提供をします。我々は習慣化サポーターと呼んでいますが、AIのチャットボットではなく、実在の人です。その習慣化サポーター一人あたりが、多くの人数をフォローできるように、裏ではかなりの部分を自動化しており、この自動化領域を順次、増やしているところです。

現在、累計約3万人がこのサービスを使っていますが、その約7割が、目標とするラインまで習慣化できているという結果が出ています。やりとりはすべてデータで蓄積しており、この結果も、リアルかつ膨大な数字を検証して得たファクトベースの数字です。専門の研究員がデータ分析を行うWizWe総研もあり、これらの貴重な数字と分析は我々の大きな特徴です。

教育領域からスタートしましたが、三日坊主が発生しやすい、行動が定着しにくい領域をメインに横展開が可能で、昨年から増えているのがフィットネス領域です。大手フィットネスクラブさんにも導入しました。また、2022年1月にはサントリー様が弊社に資本参加し、健康増進、ウェルビーイングの領域での協業が始まりました。

今回、エムスリー様にご出資いただけたのも、我々がやってきたことが健康増進に効果を発揮するという可能性を感じていただけたからに思います。2040年には、65歳以上人口が38%に増え、医療費、介護費も上がっていきます。未病、予防という点では、毎日の行動を改善すると明らかに数字が変わります。重症化予防でも、糖尿病や生活習慣病など寄与できる領域は多そうです。

さらに、この習慣化の事業は世界にニーズがあると考えています。今後は中国、ASEAN諸国、欧米でも高齢化は急ピッチで進んでいきます。教育関連の課題も世界共通です。このようなサービスは世界にありません。世界に向けてこの習慣化プラットフォームを開放することで、伴走に喜びを感じて、前向きに取り組むというプラス面で人が動くサイクルを、世界に広めたい。これが我々の実現したい世界です。

▲エムスリー株式会社 事業開発グループ ディレクター CVCチーム チームリーダー 近藤 一行 氏

近藤:我々は「インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らすこと」をミッションに掲げています。事業内容は、日本の医師の約9割にあたる31万人以上が登録しているプラットフォーム、『m3.com』の運営と、それをコアにした製薬会社向けのマーケティング支援、治験支援などです。

そのなかで、私が担当しているのはCVCです。2019年からは『1人1円ファンド』という名前で活動しています。この名前は、弊社のミッションに由来しています。CVCでは、ヘルスケアを中心に社会課題解決に資するようなスタートアップ企業様を、資金だけでなく、協業を通じて事業面でもご支援しています。

現在、弊社で取り組んでいるのがホワイト・ジャック・プロジェクトです。元々、弊社の事業は疾病発症後の患者様に対する治療をメインにしていましたが、これからは発症前、未病、予防を重点領域として注力しようという取り組みです。治療に対して未病という意味で、ブラックジャックの反対でホワイトジャックと名付けました。これが、習慣化プラットフォームとの親和性が高いと考えています。

未病、予防に加えて検討しているのが「服薬アドヒアランス」。適切に薬を飲むことを指す言葉ですが、これが難しい方もいらっしゃいます。コミュニケーションを少し加えることで習慣化できるという仮説があるので、WizWe様との具体的な協業内容として考えています。

森谷:今、近藤さんがおっしゃった取り組みにおいて、「習慣化」で広がる未来は、非常に大きいと考えています。習慣で解決できることは多いと考えられ、エムスリー様と連携することで、新しい展開になるのではと思っています。また、昨今は、治療の領域でアプリを処方するという新しい手法も出てきています。ここに対しても、処方されたアプリの利用を促すという点で、習慣化サポーターが貢献できる領域があると思います。

異分野の融合に価値を発揮。フォースタがいなければ出会えなかった両社

▲フォースタートアップス株式会社 アクセラレーション本部 オープンイノベーショングループ 資本業務提携支援担当 宮本 健太

—— 少し遡って両社の出会いと、フォースタがどのように縁をつないだのか教えてください。

宮本:森谷さん、津野さんと成長戦略やそこに紐づく共創領域について話をしていたなかで、サントリー様との資本提携を契機に、ヘルスケア領域において「習慣化」が適用する可能性をより幅広く検討していきたいと聞いたことがきっかけです。

エムスリー様とは日頃からコミュニケーションをとっていて、今後の投資の方向性、これまでの投資で得た知見をスタートアップに提供したい意向などを聞いていました。そのなかで健康経営、未病、予防というキーワードが出ており、私の頭の中で両社が重なりました。9割の医師が登録するプラットフォームを持つエムスリー様。ドクターからよい評価が出れば、WizWe様の事業成長につながりますし、習慣化プラットフォームというものが社会に定着し、よい結果が出れば、これ自体が世の中の人の健康に直結するかもしれません。ここは何としてもつなげたいと思い、双方に提案をしました。

▲株式会社WizWe 執行役員CFO HRプラットフォームカンパニー語学ソリューション部長 財務戦略部長 津野 大紀 氏

—— フォースタからの提案がなかったら、両社は出会えなかったのでしょうか?

津野:出会えなかったですね。元々森谷とは、純粋なベンチャーキャピタルよりも、事業連携を含めて考えられるCVCさんのほうが、相性がいいのではないかと話していました。ただ、CVCさんは会社の中のいち組織だったり、子会社だったり、いろいろな形態があり、どこにコンタクトをすればいいかわかりません。また、どのような投資ステージの会社に、どれくらいのロットで投資するのか。どのような領域、会社なら興味があるのか。いちスタートアップの立場ではわかりません。エムスリー様の「1人1円ファンド」は存じ上げていましたが、どなたにコンタクトをとればいいかわかりませんでした。宮本さんが間に入ったことで、しっかり話をすることができましたし、信頼できる方からの紹介があったほうが、スムーズに進むと思います。

近藤:我々も同じで、「ヘルスケア」というキーワードがあるスタートアップなら、探せますが、今回は習慣化というテーマだったので、自力では困難でした。弊社の場合、元々、ヘルスケア領域で何らかの協業やご支援をするという文脈で、ヘルスケア以外の企業も投資対象としています。実績もあるのですが、やはりリーチするのは難しい。数も多いですし、事業内容の詳細や今後の方向性などを把握するのは困難だからです。

フォースタさんにはこれまでに10社以上、スタートアップ企業様を紹介してもらっています。まさに今回のような異分野の融合となるときは、フォースタさんの触媒としての役割が非常に機能していると思っています。

森谷:そうですね。少し先の未来の我々を見据えて、今回、紹介していただいたと思います。我々の事業も、うまく言語化してもらいました。

近藤:事業内容を深く理解した上での、だいぶ高度なマッチングでしたね。

森谷:お互いの進む先が近い将来に交わる。そこを見越したような紹介で、すごいと感じました。

お互いを知るほどに次々と浮かぶ協業アイデア。アドレナリンが出るような楽しさ

—— エムスリーさんは、WizWeさんとの出会いにどのような可能性を感じましたか。

近藤:キーワードとして「習慣化プラットフォーム」がおもしろいし、未病、予防とのフィット感がありそうだと感じました。初回の面談前にはいつも以上にいろいろと調べ、準備しました。

津野:ありがたいことに、我々もいろいろな会社にコンタクトしてもらっていますが、なかでもエムスリー様のスピード感は圧倒的でした。

森谷:最初に近藤さんにお会いしたとき、こんな貢献ができるのでは、という提案をしたところ、すごいスピードでそれらの部門すべてとつないでいただきました。それぞれのお立場で「こんな角度で習慣化を」とご提案いただくので、イメージがどんどん湧いてきました。アドレナリンがどんどん出て来る感じで楽しかったです。プレスリリースなどの資料を読み込んで、調べれば調べるほど習慣化による貢献イメージが湧きました。

近藤:森谷社長は、事前に本当によく弊社のことをお調べになっていて、その上で協業アイデアを示してくれました。そのスタンスが素晴らしいし、お話がファクトに基づいているので、すごく説得力もある。社内も習慣化に対して関心が高く、検討もスムーズに進みました。

—— 両社がともに描く未来を教えてください。どのような協業を考えていますか。

森谷:既に事業部の皆様とは、結構な頻度で打ち合わせをしています。まずは未病、予防、健康経営の領域でのコラボレーション。エムスリー様の新しいサービスに、「習慣化」を付加する形で、これからの日本の健康増進に貢献していきます。服薬の領域は、これからの取り組みになりますが、ファクトデータを取って改善を積み重ねることで、できることは多いと考えています。実現すると、少し治療の領域に入りますが、かなりの貢献ができるのではないかと思います。エムスリー様とご一緒することで、本当にさまざまな可能性が広がったと感じています。

近藤:具体的な話は、今の森谷社長のご説明の通りです。WizWe様は、WizWe総研もありますし、習慣化のプラットフォーマーとしてのノウハウもかなりお持ちです。これに弊社の医療分野のリソースを組み合わせることで、これまでになかった新しい付加価値を社会に創出していければと思います。

宮本:理想的な形で協業が進みそうで楽しみです。これまでにもWizWe様はサントリー様と、エムスリー様は数々の会社との資本業務提携の実績があります。お二人に伺いたいのですが、シナジーを生む資本業務提携を実現するノウハウ、心がけのようなものはありますか。

森谷:事業会社様側のやっていきたい事業に、いかに自分たちが貢献できるかだと思います。習慣化がどのようなところにはまるか、事業会社様側のイメージがあるので、それを想像してできることを丁寧に提案し、実際に回す段階になったら、やれることを全力でやる。そしてファクトデータを基に改善を積み重ねる。これに尽きます。事業会社様は、エンドユーザーがどのような価値を感じられるかにも、とても敏感です。そこに一緒に入らせていただくというスタンスが、重要な気がします。

近藤:会社としては、成長戦略の一つに「エコシステムシナジーの創出」を掲げています。これは各事業間のシナジーを強化するという考え方で、投資先とのシナジーもこの延長にあります。元々会社全体としてシナジーを生み出しやすい土壌があるのだと思います。

私自身、ベンチャーキャピタリストとしては、よく心理的安全性が高いチームほど生産性が高いと言われますが、投資家と起業家の関係性においても該当すると感じています。信頼関係を構築し、心理的安全性を高めることで、たとえば取締役会の議論が活発になったり、企業側は良いことだけでなく悪いことも共有し、それに対して投資家側から適切なアドバイスや、バリューアップのためのアイデアがもたらされたり。このような積み重ねで、生産性が高まります。弊社の実績を見ても、このような関係性の投資先が特に上手くいく傾向にあるようです。

人との出会いは事業そのものを変える力がある。フォースタの触媒機能に期待

—— 仲介者としてのフォースタはいかがでしたか。評価をいただければと思います。

津野:まず、我々の事業を理解した上で、我々にとってもご出資されるCVCさんにとっても、いいマッチングを大切にしていただいてる点に感謝しています。

投資家さんとスタートアップをつなぐサービスは、いろいろな形態があります。たとえば、プラットフォームで直接やり取りするものもあれば、属人的に「自分はこういう人を知っているから紹介しますよ」ということもあります。それらとの決定的な違いは、フォースタさんは多くのCVCさんを知っているなかでベストマッチを探してくれること。頼もしいです。

近藤:先ほども触れましたが、異分野の融合における触媒としての役割がすごくいい。WizWe様以外にも、これまでに弊社ではリーチできそうにないスタートアップ企業様を、多くご紹介いただきました。そのときに「全然違う分野ですが、ヘルスケアでこんなことができるんじゃないでしょうか」という話をいただくので、それがすごくありがたい。フットワークが軽いのもいいですね。ポンポンと面談をセットしてくれます(笑)。

—— フォースタは資金調達支援支援のほかにも、タレントエージェンシーなどさまざまな事業を手がけています。フォースタに対してどのような期待をお持ちですか。

森谷:起業からここまでやってきて思うのは、人との出会いには事業そのものを変える力があるということ。エムスリー様との出会いもそうですし、数々の株主様との出会いもそう。一つの出会いをきっかけに大変な修羅場をクリアできたり、事業が発展したり、自分自身が成長したり。フォースタ様はそのような出会いを創出する媒介であり、社会的意義は大きいと思います。

特に採用は、とてもパワーがあります。我々の今を支えているのも、数年前に採用した中核人材です。日本にイノベーションを生むために、フォースタ様を頼りにするスタートアップは多いでしょう。我々も、これからもご一緒できたらと思います。

宮本:ありがとうございます。我々は、スタートアップの成長に合わせていろいろな支援をしたいと考え、起業支援や採用支援、アライアンス支援などさまざまに展開しています。我々も、この先も是非ご一緒したいですし、そのためには、我々自身がより成長しなくてはと思います。

近藤:私も今回の面談に先立ち、改めてフォースタさんのIR資料を拝見して、起業支援をされていると知りました。弊社も、よりアーリーのステージ、シードのステージでも投資の取り組みをしていきたいと考えているので、そこでも連携させてもらえると大変ありがたいです。

宮本:それはすごく頼もしいお話です。起業支援直後から、是非いろいろな支援を一緒にできるといいなと思います。

森谷:今回、フォースタ様にはすごくありがたいご縁をいただき、今が正念場だと思っています。学べるものをすべて吸収し、どれだけ習慣化プラットフォームを磨けるか。成長速度を上げていけるか。会社も、社員一人ひとりも大いに学び、エムスリー様の事業に貢献していきたいです。

近藤:お互い、むしろ資本業務提携したあとのほうが大変ですね。頑張りましょう。

宮本:期待しています。これからもどうぞよろしくお願いします。ありがとうございました。

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