街じゅうを「駅前化」するために急ピッチで事業展開中 採用もファイナンスも急務。最適な出会いの創出に期待

2021-10-18
Case Study
街じゅうを「駅前化」するために急ピッチで事業展開中 採用もファイナンスも急務。最適な出会いの創出に期待

株式会社Luupは、“街じゅうを「駅前化」するインフラをつくる”をミッションに、電動マイクロモビリティのシェアリングサービス『LUUP』を提供する会社です。
現在のサービスエリアは東京都心部と大阪都心部。電動アシスト自転車からスタートし、数々の実証実験を重ね、2021年4月から電動キックボードのシェアリングサービスを開始しました。

乗り降りの手続きはアプリで、機体にはIoTデバイスが入っており、GPSでの位置情報取得や遠隔での走行制御などが可能です。データを活用した機体とサービスのブラッシュアップを進め、日本全国へのサービス普及を目指します。

2021年8月には、当社資本業務提携支援サービスを通じ、岐阜県を基盤とする株式会社十六銀行の投資専門子会社、NOBUNAGAキャピタルビレッジ株式会社から出資を受け、今後の地方展開におけるモデルケースともなる協業を開始。

今回のインタビューでは、Luupが描く未来図と本件出資の経緯、地方銀行とのコラボレーションによる可能性などを聞きました。


株式会社Luup

CEO 岡井 大輝氏

CTO 岡田 直道氏

Product Manager 小城 久美子氏

フォースタートアップス株式会社

オープンイノベーショングループ 荒井 勇作


人口減少社会における大きな解が公共交通としてのマイクロモビリティ

 

 

4月に電動キックボードのシェアリングサービスがスタートし、世の中はこの新しい乗り物にワクワクしています。
サービスを始めた理由などを教えてください。

 

岡井:僕らは元々、電動キックボードがあって、そこからシェアしようと思いついたわけではありません。順序が逆で、人口が減る日本において30年後、50年後のために何ができるか。介護、医療、モビリティが新しい日本に必要だ―という前提で、僕らは、その中からモビリティ領域を選びました。

日本は公共交通の鉄道が圧倒的に便利である一方で、逆にそれが変革の足かせとなっている部分もあります。50年後は人口が減り、それに適した都市の形も変わりますが、鉄道中心では柔軟に適応できません。鉄道のいちばんの課題は駅前ばかりが栄えること。東南アジア諸国やアメリカなどバイクや車の社会では、駅から離れていても、どこも一定の人がいます。一方、徒歩と鉄道が前提の日本では駅前に人が集中します。人口が減るなかで、駅から離れた場所をどうやったら栄えさせられるか。

それに対するソリューションとして提供できるのがシェアサイクル、キックボードなどの小型モビリティです。これらをIoTデバイスで制御して乗れるようになると、駅から離れた場所へと人がどんどん行き来できるようになります。展開エリアにおいて、個人の所有ではなくシェアリングの形でサービスを提供しているのは、交通機関を使い移動する人が移動先でも使用できるから。公共交通としてのマイクロモビリティが、新たな日本にとって大きな解になるはずです。

シェアという発想から始まり、では、どんな機体を使おうかと創業時に考えました。自転車、電動アシスト自転車、原付バイク、普通のキックボードも試したなかで、ソリューションとして活路がありそうなのが、電動かつ小型で一人乗りのもの。日本人に親しむのは電動アシスト自転車ですが、グローバルでは、ユーザー目線でもオペレーター目線でも電動キックボードがいい。その後は高齢者の足としても活用いただきたいので、安定性の高い三輪・四輪にしたい。と、僕らはこのような変遷をたどっています。なので、僕らは機体にはこだわっていません。これらを制御、運用するソフトウェア、サーバー側のデータベースに強みがある会社です。

岡田:マイクロモビリティの強みについて補足しますと、一人乗りで小さいので、一度に何十台も運べます。しかもそれが、IoTデバイスによって遠隔で走行情報、位置情報、バッテリー状況などが可視化されるので、ユーザーの需要に合わせて最適に配置を組み替えることができます。例えば展開エリアの端っこに、あまり使われていない機体があれば回収し、足りないところに運ぶ。そのような街じゅうのモビリティリソースの最適配分を、データと連携して行えます。この点は従来の鉄道や車ではできない特異な、マイクロモビリティの強みだと思います。これを利用して、日本の都市の中で網目細かく配置し、利用者が行きたいところにどこにでもすぐに行けるような未来を目指しています。

目指す未来図は街じゅうを「駅前化」し、誰もがどこにでも行ける世界ですね。

 

 

小城:はい。キックボードを貸し出すことではなく、街じゅうを「駅前」にすることが私たちの未来図です。マイクロモビリティでどこにでも行ける、どこでも駅前同然に行きやすい世界。人がどこかに行きたいと思ったとき、今までだといちばん近い場所を選びますが、私たちの目指す世界が実現すれば、誰もが行きやすい場所ではなく、自分が本当に行きたいと思う場所に行けます。このようにして人が豊かになると、人だけでなく街も豊かになると考えています。その「HOW」として、電動キックボードも含めた電動マイクロモビリティを使うことにしました。未来図の実現に向けて、やるべきことはたくさんあります。

直近では、まずキックボードの使い方を伝えること。交通ルールをしっかり伝え、初めての人が不安なく乗れ、乗った後に何も困らないようにすることが第一歩。二歩目として今、直面している課題は、多くのユーザーさんにお使いいただくなかで、「乗りたいときにいつでもある」が担保できていないこと。今、どこに機体があって、次にどこにあるべきか。既に取組を始めていますが、これをしっかり設計し、解決する必要があります。

そしてもう一点、もうすこし先の取組として見えていることは、街や生活を豊かにするお手伝いをすること。今まで電車に乗る・歩く・バスに乗るという移動がありました。それが、LUUPに乗ることで「自分で移動する」という体験に変わり、今まで気づいていない街の魅力に気づくこともあると思うのです。移動のハードルが下がることで、今までになかった移動を生み出せる。例えば週末に渋谷に行くと、2人でLUUPに乗っている人を多く見かけます。これまで家にいたカップルが、「外に出てみよう」と来たのだとしたら、LUUPが街に活気を生み、生活をより豊かにできているのかもしれません。

このような形で、今まで気づいていなかった魅力に気づくお手伝いもできるのではないかと考えています。

街じゅうを「駅前化」と地方創生が合致。互いの本気を知り協業へ

 

今回、十六銀行の投資専門子会社、NOBUNAGAキャピタルビレッジから資金調達しました。
その目的や十六銀行との出会い、出資の経緯などについて教えてください。

 

岡井:今まで準備を進めてきて、ようやく特例制度の下で電動キックボードが走ることができるようになり、ユーザーも増えてきました。今後は、アプリケーションをもっとユーザーに使いやすいものにして、ハードウェアももっと乗り心地良く頑丈に、もしくはセンサーで様々なデータを取れるようにしなければいけません。ソフトウェア、ハードウェアともにさらに進化させるために資金調達を行いました。これまでは、ほかのスタートアップと比べてサービスを出す前にやるべきことが多すぎました。今回、ようやく進化に向けて資本を一気に集中するフェーズに来たところです。

今回のNOBUNAGAキャピタルビレッジさんとの件ですが、当初は、調達先として地銀さんは検討外にありました。フォースタさんに相談した際に、これから全国展開を図る中で、Luup社としてはR&Dに特化したい、全国展開においては是非外部パートナーの力を借りたいという話をしたところ、「地銀さんはどうですか」という提案をいただきました。

荒井:弊社で紹介可能な企業は国内外で現状150社ほどあります。その中の一社である十六銀行さんは、飛騨高山など豊かな観光資源を持つ岐阜県において、観光産業も含めた新たな協業ができるスタートアップを探していました。Luupさんからは地銀さんの話はなかったのですが、双方のニーズがマッチしていたので、お引き合わせした経緯です。

岡井:どれだけ本気で協業できるかがわからなかったのですが、お話をすると、十六銀行さん側にも注力したい領域があるとわかり、ご一緒したいという話になりましたね。


 

荒井:そうですね。単純なビジネスニーズのマッチングであればLuupさんと地銀の相性が良いということは誰でも想像できます。その中でも戦略実現に向けて本気で取り組む企業同士をお引き合わせすることが我々の介在価値です。十六銀行さんとして、フィンテック領域以外のスタートアップとの協業は初と聞いていたので、一定のハードルはあったと思いますが、担当の方の熱量やその取り組みにおける具体性などから、お互いにパートナーたり得る存在だと感じていました。

岡井:はい。僕らも岐阜に出張して、現場で自治体と話している人、地元の開発の人など担当者さん以外の方とも会い、本当にLUUPが岐阜に貢献できる事業になるか確認しました。双方が真剣に検討し、お互いにいい影響があると判断できたことで、今回の出資が実現しました。

実際にどのような協業イメージをお持ちなのでしょうか。

岡井:僕らはソフトウェア、ハードウェアの開発に集中し、面の広さではなくプロダクトの深さに注力したいので、現場で事業を開拓し、広める部分をお願いすることになると思います。十六銀行さんのように既に地元で信用があるところと組み、現場のオペレーションや立ち上げのご協力をいただき、僕らが質を深めたプロダクトを持って行くことができれば、いちばん効率よく進められるのではないかと考えています。僕らがゼロから岐阜で信用を得ようとするのには時間がかかると思うのですが、その点、十六銀行さんは地元でもっとも信用ある企業だと思うので、かなりドンピシャな協業ができました。

地方創生といっても、ただ箱ものをつくるだけでは人は来ません。十六銀行さん側からも、僕らのようなモビリティと連動するとデータ面、人の移動の両面で地方がもう少し活性化するという話をいただけて、それなら僕らも貢献できそうだと思っています。

ただし、具体的にはまだ調整中です。僕らは、まだ観光地に展開していません。観光地は都市部とは微妙にモデルが違い、ユーザーのニーズも違うので、今は、そのような観点で協議しているところです。

というのも、ユーザーのニーズだけで作っても、採算が合わなかったら成立しません。机上の空論で描けることには限界があるので、東京で、観光ユースで使った人の分析をかけて、どのような状況であれば向こうで再現できるかを検証しなければいけません。

インフラの難しい点は、ユーザーにとっては可能な限り乗れる場所やものがたくさんあって、安く乗れるといいですが、そうすると採算が合わないこと。そのバランスをとるのが僕らのプロダクトの難しく、おもしろいところです。

開発と人材に集中投資。ソフトウェア、ハードウェアの両面でさらなる進化へ

 


資金の使途であるソフトウェア、ハードウェアの進化についても教えてください。

 

岡田:かなり難易度は高いですが、2つの軸でプロダクトを強化する考えです。まず、メインで展開している東京、大阪エリアでより頻度高く、よりたくさんのユーザーさんに使ってもらえるようにプロダクトをブラッシュアップすること。ユーザーのユースケースにピタリとはまって使ってもらえるように、プロダクトの機能やUI/UXを磨きあげる開発をします。

同時に近い将来、台数規模やポートの設置箇所も数倍〜数十倍に増え、かなり高トラフィックなサービスになるので、それに耐えるインフラ、サーバーの基盤、デバイスの管理体制を整えなければいけません。システム面だけでなく、倉庫や現場の体制も抜本的に作り替えないと難しいので、この2つを同時に進めていきます。

これ加えて、ハードウェア側にも変革が必要です。今後、四輪のモビリティなど新しい機体が増え、既存のキックボードや自転車も単一機種ではなく、エリアの特性に合わせて性能を変えていきます。そのときに、例えばバッテリーの規格がそれぞれ全部違っていたらオペレーションが破たんしますよね。それらを共通規格にしたり、ポート側に何らかの給電設備を作ったり、バックエンドで共通した管理体制を作るなど、拡大に向けた対策を取る必要があります。ハードウェア、車体、バッテリーシステムといった側面からも、オペレーションを劇的に改善したいと考えています。
ソフトウェア、ハードウェアの両面で、どんどんLUUPが一歩先のプロダクトになるための開発を進めてきます。

小城:機体もポートもアプリも、もっと使いやすいものにしなければと思いますね。

4月にキックボードのサービスをリリースして、今は9月なので、半年近く経ったところです。それまでは、頭の中でどうキックボードが使われるのかと考えていて、今、ようやく実際に目の前のユーザーさんと向き合い、対話し、一緒に体験を作っていける状態になりました。
ユーザーさんによって使い方は違うので、たくさんの課題が見つかっています。目の前でやらなければいけないことは、「少し使いづらいね」という点を1つずつ改善していくこと。なので、今、本当に人が足りていません。全方位で採用していかなければいけないので、それが最大の課題ですね。

岡田:そうですね。ユーザーさんのニーズに応えるためにブラッシュアップするグロースと、事業規模のスケールに対応し安定性を高める改修の部分と、本来別の時期にやるべき2つを同時にやっているので、難易度は高く、たくさんの優秀な技術者が必要です。

荒井:僕は自転車のときからLUUPを使っていますが、キックボードは、最近特に若い方が積極的に利用しているイメージがあります。どの年齢層から攻めるとか、狙いはあるのですか。

岡井:今の機体は20代から50代くらいまで乗れるものですが、最終的に目指すのはインフラなので、僕らは年齢や属性は絞らず、いろいろな層に使ってもらいたいと考えています。
ただし、確かに使い方は違う気もします。土日にカップルが回遊するのと、平日のビジネス街での利用とは違います。そのあたりの解像度はもっと上げていきますが、誰かにフォーカスするということはなく、多様な層に使ってもらう方向でユーザーセグメント、ユースケースを広げていきます。そのためには今のままでは駄目で、データを分析しながら、インクルーシブで全員に対応するUXにしていく必要があると考えています。

岡田:安全という点では、アプリ上で交通ルールに関する10問の質問に全問正解しないと乗れない仕組みになっているほか、車体でも、歩道走行などの違反を検知できるような新しい技術開発を、さらに進めていきます。基本はGPS経由で走行ルートのデータが取れるので、これをベースに今、どこのルートを走っているのか、車道か歩道かを検知する試みや、それに向けてGPSモジュールの精度を向上させるなど、技術開発的なプロジェクトはいろいろあります。

海外では、車体が遠隔で施錠・開錠できることを悪用し、ハッキングされてしまうという事例がありました。
例えば走っている途中のキックボードが急に停められて大けがをするとか。それはデバイスの設計が甘かったり、セキュリティが若干弱いBLE通信を採用していたりするので、LUUPでは起き得ないですが。LUUPは初期段階から、走行中に施錠系コマンドが効かない仕様・SIM経由でのLTE通信など、ハードウェアと通信方式の両面から安全を担保していますが、今後、通信方式のセキュリティー強度を高めるほか、通信頻度、通信内容のチューニングもやっていかないといけません。

というのを同時に進めながら、プロダクトの改善もやっていくわけで(笑)。とても大変ですが技術的におもしろいトピックはたくさんあって、今いるエンジニアはすごく楽しんで取り組んでくれていますし、同時に新しい仲間も探していきます。

速すぎる事業展開に人材もファイナンスも急務。最適な出会いの創出に期待

 

 

人もお金も必要ですね。最後にフォースタートアップスに期待することをお願いします。

岡井:とにかく、絶賛人材募集中なのでそのあたりを(笑)。というのも、僕らも探しているし、応募もたくさんいただくのですが、やはり事業の立ち上がりが早すぎるので、いい方でも合流できるのが半年後…とかでは遅いんですよね。なので、僕らの場合は、フォースタさんに最適な方をマッチングしてもらったほうがいいケースが多いと思います。これからも早すぎるほどのペースでプロダクトを深め、日本中に広げていくので、是非、最適な出会いに恵まれるようにお手伝いいただきたいです。

ファイナンスについても同様で、僕らはひとたび安全性、採算性、ユーザーにどれくらい刺さるかの3つの観点でモデルをつくったら、あとはそれを無限に作り、広げていくので、これから資金調達もかなり連続的に立ち上がっていきます。となると、僕らがセレンディピティ的に出会えるのには限界があります。今回の十六銀行さんのように、俯瞰する立場で見て「この組み合わせは最適だ」というめぐり合わせをどんどん提示してほしい。

採用もファイナンスも同じですね。最適な出会いにご協力いただければと思います。

荒井:ありがとうございます。Luupさんのミッション実現に向けて、我々も全力を尽くします。これからもよろしくお願いします。



 

取材のご協力:株式会社Luup

https://luup.sc/corporate/


インタビュー/撮影:山田雅子・塩川雅也

 

 

 

Related Challengers