社内カンパニーを経て、2016年9月に創業したフォースタートアップス株式会社(以下、フォースタ)。これまでスタートアップ各社に200人を超えるCXOをはじめ、あまたの人材を紹介することで、日本の再成長を担う成長産業を支援してきました。入社後、キーマンとなった彼らが活躍し、爆発的な成長を成し遂げたチームは少なくありません。創業から約7年経った現在、そのように支援した数々のチームが上場企業になるど大きく成長されています。
今回、紹介するのはその一つ、「日本の医療体験を、しなやかに。」をミッションに、調剤薬局向けサービス『Musubi』などを展開する株式会社カケハシ(以下、カケハシ)。薬局のDX支援にとどまらず、医薬品産業・医療産業全体へと視野を広げた新たな取り組みにも着手し、日本の医療や社会の様々な課題を解決しようとしている会社です。この大きな課題にともに挑むべく、2023年1月、フォースタは子会社のフォースタートアップスキャピタル合同会社を通じてカケハシに出資。さらに絆を強めたところです。
フォースタにとっては、「ヒト」と「カネ」の両面から成長を支援するハイブリッドキャピタルのモデルケースでもあります。カケハシの代表を務める中尾豊氏と中川貴史氏、フォースタの代表・志水雄一郎とヒューマンキャピタリスト・伊藤香奈の4人が、これまでの歩みとこれからについて語りました。
株式会社カケハシ
代表取締役社長 中尾 豊 氏
代表取締役CEO 中川 貴史 氏
フォースタートアップス株式会社
代表取締役社長 志水 雄一郎
タレントエージェンシー本部シニアヒューマンキャピタリスト兼マネージャー 伊藤 香奈
2020年に取り組みが本格化。採用プロセスの変革に貢献
▲株式会社カケハシ 代表取締役CEO 中川 貴史 氏
—— フォースタとカケハシ様の取り組みが本格化したのはいつ頃ですか。
伊藤:私が担当になったのは2020年夏。コロナ禍で、どこの企業も採用を控えていた時期でした。カケハシ様から、同年秋に資金調達をして採用のアクセルを踏んでいくというお話をいただき、フォースタとの取り組みが本格化しました。その前もご支援の実績はあったのですが、ぐっと増えたのがこのタイミングでした。
中川:そうですね。カケハシは2018年に社員20人から100人弱へと拡大しており、そのときにもフォースタさんにはお世話になっていました。ただ、一気に増やしたので、そのあとには、しっかり組織化してパフォーマンスが出る状態に持っていく成熟期間が必要でした。なので、2019年の1年間はかなり採用を控え、2020年に再度、成長軌道に乗ろうとアクセルを踏み始めたのです。
2020年は複数のプロダクトを展開し始めた時期でもあり、プロダクトを支えるエンジニア、エンタープライズ向けの営業や導入支援のメンバーも必要でした。これまでにいなかった人材、とりわけハイレイヤーに近い層を必要としていました。それまでも採用基準は高かったのですが、さらに上げて、ほとんど無茶ぶりでした(笑)。
伊藤:カケハシ様は、医療体験をあるべき姿に変えていくという世界観だけでなく、バーティカルSaaSの会社として知れば知るほど期待と魅力を感じました。それをどう社内のヒューマンキャピタリストへ、その先の求職者さんへと伝えるかが鍵で、私も一生懸命、社内のメンバーに話をしていました。
2021年秋からは、プロダクトサイドを強化するということで、エンジニアの採用支援に注力し始めました。正直に言うと、最初はあまりエンジニアの方に魅力が伝わりきらなくて、選考の途中でご辞退があったり、そもそもご紹介してもエントリーをしてもらえなかったり。そこから、求職者の方からもらった感想や疑問を、カケハシ様に率直にフィードバックしながら、どう魅力的に伝えるかをディスカッションしつづけました。1年ほどその取り組みを続けるなかで、全体の選考の設計も、ひとつひとつの面接の中身も改善されていき、直近ではかなりご支援が進んでいます。
中川:2021年からの取り組みですごくよかったのが、フォースタさんとの定期ミーティング。採用プロセスのどこに課題があるのかを、数字で可視化し、共有していただきました。そこでは、いい話だけではなく、「カケハシ様のここが駄目です」と、ストレートなフィードバックをくれる。一方で、他社での成功事例をいくつも教えてくれるので、僕ら自身の採用プロセスや進め方も進化しますし、社内のメンバーにとっても学びになりました。
ときには社員以上にカケハシを理解。全社員の4分の1、70人がフォースタ経由
▲フォースタートアップス株式会社 タレントエージェンシー本部シニアヒューマンキャピタリスト兼マネージャー 伊藤 香奈
—— 再び採用のアクセルを踏んだ2020年の組織状況や課題は、どのようなものでしたか。
中川:タイミングとしては正社員が150人ほど。今(2023年3月時点)は300人以上なので、半分以下です。当時は、エンジニアはもちろん、新規事業開発も含めて全方位的に採用を進めなければいけない状況でした。
当時の課題は経営メンバーが採用のプロセスに関わりすぎていたこと。やはり、経営陣が話すと未来を語れる分、しっかりアトラクトできます。でも、採用したい人数を考えると経営メンバーだけでの採用体制には限界がきます。全方位での採用を実現するためは、組織全員で採用活動ができるようになることが重要でした。各チームのハイアリングマネージャー(採用推進責任者)を中心に、組織として採用に取り組む体制にシフトすることが、当時の最も大きなテーマでした。フォースタさんと一緒に、面談のストーリーを見直したり、細かいフィードバックのサイクルを回したりしながら、ハイアリングマネージャーには具体的な改善点を伝えることで、徐々にいい面接ができるようになりました。この効果は大きかったです。
伊藤:選考体験の設計については、中川さんをはじめ、人事やハイアリングマネージャーの皆さんとも議論させていただきました。カケハシさんの打ち出し方を磨くために、それぞれのパートの方とよくミーティングをしています。
中川さんから、会社全体としてここに人員が必要だという話をいただいたあとに、人事や部門の方たちと話して、より具体的なニーズやポジションの面白さをキャッチしています。現場の方たちと話すと、具体的な面白さや魅力がたくさんあることがわかり、これを選考でうまく伝えることさえできれば、求職者のみなさんに選んでいただけるはずだと思っていました。現場の方のキャラクターも踏まえて、どなたにお会いいただき、どのような話をしていただくのがよいかなど、密にコミュニケーションを取りながら解決していきました。
中川:もはや、カケハシ社内を把握し過ぎていますよね。私が把握できていない新しいポジションを、伊藤さんが知っていることもあるくらい(笑)。
伊藤さんが個々の採用ニーズやポジション、それも必ずしも求人票に表現されていない背景やニュアンスをすべて理解したうえで、適任の人を探しに行ってくれるので、本当にもう、社外の人と話しているという感覚がないほど。それくらいわかってくれています。
—— 実際、たくさんの素晴らしい仲間が来てくれましたか。
中川:はい。フォースタさん経由で仲間になったメンバーは70人近く。全社員の4分の1で、しかも本当に活躍しているメンバーばかりです。
中尾:会社が成長するフェーズ、フェーズで入ってきた方々がすごく活躍していますね。
中川:本当に、今のカケハシを担っている方々がそろっています。その方たちが時代をつくってきたとも言えるほど。特定の誰かがというよりは、みんなが会社を引っ張ってくれた。この一人ひとりがいなかったら、今の我々はありません。
伊藤:改めて振り返ると事業フェーズごとに、例えばエンタープライズ攻略、新規事業開発、直近ではプロダクト開発など、注力する部分に変化があり、その時々で必要なチームづくりをご支援できていると思います。
志水:当初は比較的、中尾さんとのコミュニケーションが多かったのですよね。私たちもコミュニケーションを中川さんと人事チーム・現場のマネージャー陣にシフトしていきました。カケハシ様が次の成長へと向かうなかで、しっかりと役回りを分けられた。そして、お互いが組み合わさったときに最大値の企業体となる関係を、お2人がつくれていることは、本当に素晴らしいと思います。
中尾:企業フェーズの変化に伴い自身の役割も変化するなか、社内の人にもフォースタさんにも感謝しています。多分、ここまで任せきれる状況というのは、なかなかない気がします。
志水:次の事業計画も、すでに具体的にお考えですし、私たちがハイブリッドキャピタルとして、人もお金も支援する最大値のモデルになるよう、全力でご支援したいと思っています。もう4分の1と言わず…
中川:組織の2分の1はフォースタさんの支援で(笑)
志水:そうですね。それくらい全力でご支援をしたいですね。
新たな価値を次々と創出するフェーズへ。医療プラットフォーマーとしてさらなる進化
▲株式会社カケハシ 代表取締役社長 中尾 豊 氏
—— 今後の事業展望を教えてください。
中尾:僕らは、ただお金を儲ければいいという会社ではありません。日本の高齢社会における社会課題、業界内外が解決すべき課題をきちんと捉えながら事業を進める会社になっていきたいと考えています。そのために新しい事業をつくり、根を張りながら着実に成長することで、最終的には患者さんや、多くの生活者の方に価値を提供したい。例えば、社会保障費をどう下げていくかといった課題にも挑戦していきたいと考えています。
薬局業界においては、多くの方に知っていただき、プロダクトも導入いただいています。ここからの1、2年で、これまでのサービスを通じて蓄積されたデータなどを活用し、お客様への新たな価値提供に挑戦していく時期に差し掛かっています。
そうすると今度は、僕らの提供するサービスでいかに人々の意識や行動をより良い方向へ変えられるかが問われます。加速度的に蓄積されるデータを活用すると、誰がどれだけ薬を飲んだら健康になったか、副作用が減ったか、経済合理性が高いかなどの分析ができるようになります。これらを生かしたサービスが実現できると、後世の人に価値を残せるインフラになると、僕らは信じています。
一方で、バーティカルSaaSとしての成長の仕方として、業界を絞った形から段階的に、周辺の事業を乗せていくトライもしないといけません。例えば、薬をめぐるサプライチェーンのリデザインや、薬の安定供給などの課題について、ステークホルダーと一緒に取り組んでいきたいと考えています。
生活者向けのソリューションをつくるならば、医療の周辺領域、例えば運動や食事などの行動や嗜好性によって、人間の行動変容をどう促せるか、そこから得られるデータによる新たなインセンティブ設計なども含めて、幅広いことができそうです。そのようなものが年々出て来て、これからのカケハシには、これまでになかったスピード成長が起こるのではないかと思っています。
志水:カケハシ様は、ベンチャーキャピタルが期待しているだけでなく、日本のスタートアップ業界全体からの期待がものすごく高いのです。だからこそ僕らは、「ヒト」と「カネ」の両面からカケハシ様の成長を支えなくてはいけません。
小さな成功でいいのであれば、ベンチャーキャピタルの皆さんも「カケハシ様、ここで上場したらどうですか。世の事業会社と遜色ない価値がつけられますよ」と言うでしょう。でも、カケハシ様はそんなレベルの会社ではない。もっと大きな夢があります。社会システムを、未来を変えにいく人たちだから、もう一勝負しにいくのです。その勝負が大きい。
この2人のもとに、フォースタ経由の70人を含めて300人を越える素晴らしい仲間が集まっています。これからも、素晴らしい仲間を集め続けられれば、その未来はきっとつくられるでしょう。もし、そこにキャッシュが必要なら、僕らだけでなく、日本のスタートアップエコシステム全体でカケハシ様に向けて集中投下できるドライパウダー※があるし、その気持ちもあります。必ず成功できるプロジェクトだと思っています。
※まだ投資に回されていないファンドの待機資金
スタートアップの成長は人がすべて。仲間として成長を支えてほしい
▲フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長 志水雄一郎
—— 未来図の実現に向けて、フォースタに対しては、どのようなことを期待されますか。
中川:スタートアップの成長は人がすべて、と言ってもいいくらい、やはり人が大事です。今、カケハシは第二創業期。バーティカルSaaSとしての成長だけではなく、日本の医療を変え得る、大きな医療プラットフォーマーになるという変化のタイミングにいます。それを実現できるかどうかは、人にかかっています。
フォースタさんは、そこを一緒に支える覚悟を持って、ある意味、リスクをとってお金を投資し、人手を割いてくれている。運命共同体として、仲間として寄り添ってくれています。きっと日本の未来をつくることにつながるので、改めて僕らの事業を支えてほしいと思います。
中尾:伊藤さん、およびフォースタさんには、今まで以上に、カケハシのビジョンを代弁する人であってほしいです。採用活動において間を取り持つのではなく、カケハシの今をもっともよく知る人として、伝えていただけると嬉しいです。
これから、僕らは事業の多面性が出てきます。ワンプロダクトでどう獲っていくのかではなく、いろいろなサービスでどう社会をより良く変えるか、という世界になる。そのときには、採用の場面で、「あるサービスのこのポジション」というものに対して、事業の新たな理解と、意義を含めて説明する必要性が出てきます。となると絶対に、より密なコミュニケーションが必要になります。ほかの会社より工数はかかるかもしれませんが、そこは期待しているので、引き続きよろしくお願いします。
志水:中尾さんも中川さんも、何かあれば私たちに向けてつぶやいてください。求人じゃなくても、事業のこと、プロダクトのこと、サービスのこと、課題でも何でもつぶやいてくれたら、僕らはそのつぶやきから想像力を巡らせ、課題解決できる人を日本中から連れてきます。それが僕らの仕事です。一部の起業家の方たちは僕らの使い方をわかっていて、メッセージが来るんです。「どんな人がほしい」ではなく、「こうしたいなあ」と。本当につぶやきです(笑)。
これはフォースタ自身の次なる挑戦ですが、つぶやかれた課題や「こんなことできないの?」と振られたことに対して、どんなソリューションでそれを解決したらいいか、そこから想像することが僕らの仕事。僕らは、もっともっと課題解決のソリューションをつくらなければいけないと思っています。例えば、戦略課題を解決するために、日本から、世界からパートナーを探してきて、資本業務提携などへとつなげるサポートもやっています。御社は御社で、いろいろなところにアクセスできるでしょうが、僕らがいることで、思いがけないチームを組み合わせてバリューアップする機会も生まれるかもしれません。
カケハシ様という一つのプロジェクトを通じて、僕らはもっと多面的な課題解決に挑戦したいと考えています。何しろ圧倒的に成長して、カケハシ様のような課題解決をする企業様には、僕らも連動した課題解決をすべきなのです。その機会は、常に探っていきます。
中川:ありがとうございます。思うに、この7年間でスタートアップに飛び込んでくれる人材のレベルは、すごく変わりました。その一端を、志水さんも担ってきたと思います。せっかく日本でも「スタートアップに行くことが、キャリア的に輝かしい」となってきたところ、今は金利の利上げによって景気が逆戻りしている状況でもあるので、時計の針を戻さないようにすることが重要です。
大企業などにいる優秀な人が、スタートアップに行ってチャレンジすることが、キャリアとして成功の一つだという価値観を、もっと日本中に広められるように、ぜひフォースタさんに頑張ってほしいです。
バリューに「高潔」と掲げるカケハシ。壮大な挑戦を全力で支援するフォースタ
—— 御社の採用ポリシーを教えてください。
中川:ミッション、ビジョン、バリューをすごく大事にしています。カケハシは「高潔」というバリューが最初に来る志の高い会社ですが、それを好きでいてくれることが大事。医療や社会にとって正しいことをすることを一番大切にしていて、間違ったことで儲けるくらいなら、会社がつぶれたほうがいいという覚悟を持っています。そういう企業でないと、医療という場にいてはいけないと思うんですよね。僕らは、社会にとっていいことは素晴らしいと、心の底から思っている人の集まりであり、これからもそれを実現できる人を集めたいです。
伊藤:バリューは現場に本当に浸透していて、採用の話をしているときも、それを強く感じます。実際、現場の方からの面接フィードバックでも、バリュー体現できる方か、という視点でのコメントが多いですね。
また、現場の方々との打ち合わせでは、入社して日が浅い方が来られることもあります。私はそういうとき、必ず「入ってどうですか」と聞くのですが、皆さん口を揃えて「みんないい人です」とおっしゃいます。
自分がどこかの会社に入ったときに感想の第一声で「みんないい人です」と言えるかな、と考えると、難しいだろうなと。それだけ「カケハシさんらしい人」が集まっているということなのだと思います。バリューベースの採用だからかもしれないし、掲げる世界への共感があるからかもしれませんが、素敵なことだなと思います。
—— なぜそれが実現できているのでしょうか
中尾:どうしてでしょうね(笑)バリューを決める前から、言語化はしていなくても「こういう人たちと一緒に働きたい」というイメージが合っていたのでしょうね。最初は私と中川の2人で、そこから少しずつメンバーが増えるなかで、共通していたのは「社会課題を解決したい」、同時に「事業としても成功しないと課題を解決しきれない」という想いでした。そうでないと持続可能な課題解決になりません。そのような現実性も含めた大人の集団が、我々の初期の状況でした。
その頃、メンバーで議論すると、みんな「やっぱり子どもに胸を張って仕事をしたいよね」と言うのです。そういう人たちが最初に集まって、それをコアなアイデンティティにしたいと思い、そこからブラッシュアップして、積み重ねて今があるのだと思います。
—— 素晴らしいですね。そんなカケハシ様の壮大な挑戦に、共に挑む決意をしたフォースタの意気込みを、改めて教えてください。
伊藤:今回の投資で、名実ともにカケハシ様とフォースタは運命共同体になりました。ただし、私自身は、これで何かが変わるわけではありません。はじめてお会いしたときから、カケハシさんの目指す世界を一緒に実現させるという想いでずっとやってきました。これからも、担当としてしっかり向き合い、支援することで、カケハシ様の壮大な挑戦を応援したいと思っています。
志水:フォースタは、人の無限大の可能性を活かした事業創造、社会創造、未来創造を中核にした成長産業支援で、日本の再成長を実現しようとしています。
人の無限大の可能性はとても崇高なものですが、一方でご家族を含めたその方の人生を預ける先は、選択肢としてとても大事です。カケハシ様はその一つとして、自信を持ってご紹介していきたいですし、そのお引き合わせで何かが生まれると信じて、カケハシ様の事業創造を共に実現するのだという強い意志を持つことが大事だと考えています。
それがうまく実現したときに、お互いの関係がさらに強固になる。僕らはすでに、そのモードに入っています。これからもお互いに「こうしたい」とつぶやき、そこからどんどん共創が生まれることを期待しています。今日はありがとうございました。